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赤い帽子
1部分:第一章
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拠もないのだな」
「それだけです」
 斧で切られたということだけであった。
「斧ということ以外には」
「それではだ。その斧を調べよう」
 署長は腕を組んだままこう提案してきた。
「それで何かわかる筈だが。もう調べたか?」
「はい」
 ここでそれまで黙っていた署長と副署長以外のスタッフのうちの一人が応えてきた。黒に近いダークブラウンの髪を丁寧に後ろに撫でつけやや痩せた整った顔を持つ若い男であった。その目からは灰色の二つの光を放っている。白い理系の研究服をスーツの上から着ている。
「斧については調べ終えました」
「そうか」
 署長はそれを聞いてまずは頷いた。
「それで何かわかったか?」
「かなり古い斧です」
 彼は斧についてこう答えてきた。低いバリトンの声であった。
「それも中世の頃の」
「中世の!?」
 それを聞いて署長だけでなく他の面々も思わず顔を顰めさせた。
「中世の斧か」
「はい、被害者の傷口に付着していた錆等を調べるとそうでした」
「そうなのか。何か余計にわからなくなったな」
 署長はそこまで聞いて首を捻った。
「中世の斧か」
「しかもです」
 白衣の男はさらに言う。
「その斧には別のものも付着していました」
「ほう」
 署長も副署長もそれを聞いて思わず声をあげた。新たな証拠かと期待したのである。
「それは一体何かね」
「血です」
 白衣の男はこう二人に答えた。
「血か」
「その数は尋常なものではありませんでした」
 彼はそう二人だけでなく周りにいるほかのスタッフにも語った。
「十人ではききません」
「何っ!?」
「では他にも発見されていない犠牲者がいるのか」
 二人も周りもそれを聞いて気色ばむ。だが彼が語るのは彼等のその危惧をさらに上回るものであった。
「千人、もっといくでしょうか」
「それはないだろう」
「幾ら何でも」
 誰もがそれを聞いて一笑に伏そうとする。しかし彼の言葉はそれを許さなかった。
「それがですね」
「そこにも何かあるのか」
「あります。その血ですが」
 彼は話しはじめた。それは驚くべきことであった。
「千年前のものからはじまっています」
「千年前のものからか」
「はい、それだけ長い間使われてきたものです」
 そう述べる。署長達はそれを聞いてあらためて顔を顰めさせた。
「しかも人を殺める為だけに」
「そうして千人か。千年で」
「長い間使われなかった時期もあります」
 彼は続いてこう述べた。
「百年程度ですが。それは最近までです」
「それではだ」
 署長はここまで聞いて彼にまた問うた。
「この辺りからか。また使われだしたのは」
「そうです。しかも力の入れ加減によって」
 また話される。その内容にしても奇怪なものであった。
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