6部分:第六章
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「いえ、構いません」
人々は悔しがるが司祭は至って冷静であった。ただ一人。人々はその彼を見て怪訝な顔で問うのだった。
「もう何もできませんから」
「確かにそうですが」
もう彼の正体は明らかにされた。それでどうこうすることはもうできないのは誰の目にも明らかなことだった。だがそれでも人々は怪訝な顔を崩せなかった。
「ですが逃げられましたし」
「捕まえることはもう」
「それもまたいいのです」
しかし司祭はそれもいいというのだった。
「気にすることはありません」
「そうなのですか」
「はい、全く」
この場合においても落ち着き払った声は変らなかった。
「気にすることはありません。全く」
「またどうして」
誰もがその怪訝な顔で司祭に問うた。
「気にすることはないと」
「逃げられたのに。確かにもうどうこうすることはできないでしょうが」
「既に彼の命運は決しました」
その静かな声で人々に答えたのであった。
「ですからいいのですよ」
「いいのですね」
「ええ」
笑みもまた穏やかであった。しかしそれと共に何故か寂しいものもそこにはあった。複雑と言ってもいい不思議な笑みであった。
「それでいいのです」
「そうですか」
「それよりもです」
あらためて人々に告げるのであった。
「このお婆さんを」
「あっ」
「そうでした」
司祭に言われてようやく気付くのであった。これまであまりにもホプキンズに注意を向け過ぎてしまっていたことの結果であった。
「早く縄を解いて」
「傷の手当てをしないと」
「よくしてあげて下さい」
老婆を労わってくれるようにも頼むのだった。
「やはり。ショックを受けておられますから」
「そうですよね」
「魔女と思われればやはり」
「あの審問も」
ホプキンズの審問は陰湿であった。それだけに心に受ける傷は深いとわかるからだ。人々はこのことを思い様々なことを考えることになった。
「きついなんてものじゃないですね」
「ましてやです」
自分自身に置いても考えだした。
「自分が受ければどうなるか」
「魔女と思われれば」
「辛いですね」
司祭はこのことも人々に問い掛けた。
「そうなれば。やはり」
「魔女ではないです」
「私もです」
人々の言葉はここではかなり必死なものになっていた。どうしてもそれだけは否定したかったのだ。若し魔女だとされればどうなるか。彼等こそがよくわかっていることだからだ。
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