第四章 誓約の水精霊
エピローグ
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療をしようと士郎に杖を向けるが、それを士郎が杖を持つ腕を掴んだことで止めた。
「俺はいい。それよりも、あそこにいるヒポグリフ隊の生き残りの治療を頼む」
「えっ、で、ですが」
「俺は大丈夫だ。目を覚ましたばかりですまないが、少し無茶を頼む」
士郎はアンリエッタの腕を掴んだままで、木陰に寝かされているヒポグリフ隊の生き残りに向かって歩き出した。
ヒポグリフ隊の生き残りを全て治療し終えたアンリエッタが、濡れた草原に倒れ伏すウェールズに向かって歩き出した。
足元のウェールズを見下ろしたアンリエッタは、膝を曲げ顔を近づける。
雨に濡れ、顔に張り付いた髪をどかそうと手を伸ばすと……。
「ウェール、ズ、さま?」
開かないはずの瞼が開く。
焦れるほどゆっくりと、しかし確実に開いていく目に、アンリエッタの姿が映ると、ウェールズが掠れた声を響かせる。
「……ああ。そうだよ、アンリエッタ」
目を離せば消え入りそうな姿のウェールズが、先程までの人形ではなく、自分が愛した本物のウェールズだと、愛おしげに見つめてくる瞳と甘やかに響く声で分かった。
もう枯れたかと思った涙が、静かに頬を伝っていく。
「ウェ、ウェールズ様……わたしは……」
何かを言おうと、アンリエッタが口を開くが、それが言葉になることはなかった。言葉が出ないことに、焦燥感を感じ、苦しげな様子を見せるアンリエッタの手に、ウェールズがそっと手を乗せた。
「あっ……」
「アンリエッタ……最後のお願いがあるんだ」
「えっ……最、後?」
「ああ、最後だ」
儚くも、優しい顔を向けてくるウェールズに、アンリエッタは戸惑った様子で、ウェールズを見る。そして、そこで気が付いた。アンリエッタの目の前で、ウェールズの白いシャツの丁度胸の辺りが、赤く染まっていく。それに気付き、慌てて治療をしようと杖を持ったアンリエッタを、ウェールズが止めた。
「もう、どうしようもないんだアンリエッタ。僕は既に死んだ存在……だから……何をしても、もう止めることは出来ない……」
「……っ……」
のろのろと杖を下ろすアンリエッタの姿に、微かな安堵の笑みを浮かべたウェールズは、アンリエッタの手を握る手に、一度ギュッと力を込めて握った。
一瞬ビクリと肩を震わせたアンリエッタが、力なくウェールズに目を向ける。
「君と初めて出会ったあの場所……ラグドリアン湖に連れて行ってくれないか……」
士郎の手により風竜にウェールズを乗せると、士郎達はラグドリアン湖に向かった。
そして今、士郎達の視線の先には、ラグドリアン湖の前に並んで立つウェールズとアンリエッタの姿があった
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