慟哭のプロメテウス
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「聞いたか? 東の砂漠の遺跡の話」
「ああ、『侯爵級』の『吸血鬼』が住み着いた、って奴か」
酒場の喧騒の中で、他愛ない世間話が繰り広げられていた。
「なんでも、『狂騒種』だそうで、既に五十人近い討伐隊が犠牲になってるらしいな」
「ひぇ、おっかねぇ」
「街まで来ないといいなぁ」
エールのジョッキを片手に語る男の周りでは、馴染みなのだろうか、数名の男達が彼の言葉に反応を返している。冷静に返す者、おどける者、怯えるもの。三者三様の反応。
心のどこかでは、誰一人として、己と関係のあることだと考えている者は居ないのかもしれない。
しかしその喧騒を、冷静に聴く者が一人いた。男達とは少し離れたカウンター席に座った、奇妙な人物。
真紅のレザーコートに身を包み、同じく真紅の髪を、肩口辺りでざっくばらんに切っている。顔を覆う真っ白い能面と、体型のわかりづらいライトアーマーのせいで、性別すらも判別できない。
腰に巻かれたベルトには、ホルスターが二つ。それぞれに、レッドメタリックの外装をした拳銃が収まっていた。
その人物──便宜的に『青年』、代名詞は『彼』とする──は立ち上がると、ポケットから銀貨を取りだし、カウンターの向こうでコップを拭くマスターに向かって放りながら、やはり性別の分かりにくい声で言った。
「ごちそうさま」
「まだ何も飲み食いしてないだろうに。律儀なこった……行くのか?」
マスターが片目だけの眉をひょい、と上げつつ聞く。青年は肩を竦めると、「まぁな」と答えた。
「『侯爵級』だそうだが?」
「知らん。あいつらに至る手がかりがあるかもしれないなら、オレは何だって狩るよ」
「全く……気を付けろ」
マスターに激励されて、青年は酒場を出た。
***
世界は、四つの階層に分かれている。
第一層、カイーナ。
第二層、アンテノーラ。
第三層、トロメア。
そして第四層、ジュデッカだ。
カイーナより上にも世界があるという話は聞いたことがあるような気がするが、基本的にこの世界に暮らすなら関係はない。階層が進むごとに危険に、そして邪悪になっていく世界に抗いながら、生き残るためにもがくだけだ。
この世界には、人類を脅かす存在が無数にいる。その中でも抜きん出て特徴的なのが『吸血鬼』だ。
かつて人類が扱うことができたという超常の力、『魔術』。その昔、大地と人類が切り離された時に失われたとされるそれを、人の身に封印することで再現する──その技術を、『刻印魔術』と言った。
最初は魔術の代用として働いた刻印魔術だが、やがて人類が地上に舞い戻ると、事
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