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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第135話 相馬さつき
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 月の明かりに支配された蒼の世界。
 黒々と氷空に向かって伸びる城山の樹木は、遠く、シベリア生まれの寒気団が作り出した冷たい風に晒され、今宵、この場で行われている儀式に相応しい音を発していた。
 その、まるで人がすすり泣くかのような陰気の中に、一際強く感じる……異界の気配。
 確かに一口に異界とは言っても、その種類は千差万別。この現代社会とまったく違いを感じる事のない、俺が生まれ、元々暮らして居た世界や、未だ社会の制度や科学技術が中世から近世レベル。一部の貴族が支配し続けている世界などが存在するのだが……。
 今、俺が感じて居る異界の気配はその中でも最悪に近い気配だったのかも知れない。



「かけまくもかしこき――」

 意外に朗々とした声が犬神使いの口から発せられた瞬間、
 ゆっくりと手にした日本刀……いや、これはおそらく日本刀の源流とされる毛抜き形太刀。その太刀を抜き放つさつき。
 ギラリ、……と不穏な光を反射する刀身。そして、その光に反応するかのように周囲にすっと浮かび上がる赤。しかし、それは普段の彼女を示す鮮やかな赤などではなく、もっとずっとずっと(くら)い色の炎。
 まして今宵、彼女の気が充実した際に発現する左目の瞳がふたつに増える現象は発生せず。更に、通常時の彼女が能力を発動させる際に発生させる、輝くような瞳もこちらに魅せる事はなかった。

 その代わりにさつきの身体に纏い付く黒い……闇。それはまるで風に揺れる薄手のケープのようにゆったり、ゆったりと揺れ、柔らかで、それにたおやかなイメージを作り上げる。
 但し、その薄物が小さくはためく度に。軽く揺らめく度に、その内側には強い狂気を孕んでいるように俺は感じていた。

 しかし――
 しかし、これは当然、予想通りの展開!

「天にまします我らの父よ、願わくは御名を聖となさしめたまえ――」
「夫神は唯一にして御形なし。虚にして霊あり。天地ひらけてこの方国常立尊(くにとこたちのみこと)を拝し奉れば――」

 事前の打ち合わせ通りに、祈りの詞を唱えながら前進を開始する俺。そして、同じように稲荷大神秘文(いなりおおかみひぶん)を発しながら右斜め後方へと後退を開始する弓月さん。
 前へと進む俺の手は術を発動する為の印の形を。
 そして、後退中の弓月さんの手には桃の弓。更に、彼女が動く度に発する微かな鈴の音。

 双方共に。……俺の方は普段の仙術による強化に加え、有希の元々持って居た有機生命体接触用端末の技術によるドーピングを。
 弓月さんの方も俺の術と彼女の術による強化が行われる事により、現在のこのふたりの動きは、一般人の目では完全に追い切る事は不可能と言っても良いレベルにまで強化されている。
 全身の毛が逆立ち、猛烈な勢いで全身に血液が送
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