Epilogue -エピローグ-
Returnees
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そして、それを模したあの世界を作って、それを超えたヤツに倒されることを望んでいたんだとしたら、俺に負けることこそが、仮想のアインクラッドを超える存在の証明、つまり、本物のアインクラッドがきっとどこかに在る可能性を示すことに繋がる。アイツはきっと、そんな風に考えてたんじゃねえのかなって、思うようになったんだ」
「……子供みたいだね。夢見がちで、自分の願望にバカ正直なところとか」
「童心を忘れてねえって言えば、聞こえはいいのかもしんねえけどな。それで被害を被る方はたまったモンじゃねえよ」
そう言うと一護は深いため息を吐き、さて、と私に向き直った。
「そろそろ降りようぜ。下でアイツらをずっと待たせてんのも悪いしな」
「ん、分かった」
私は首肯を返し、ふとあることを思いついて立ち止まった。
「……そういえば、一護」
「ん? なんだよ」
「私のこと、いい加減名前で呼んでほしい」
「いっつも名前で呼んでるじゃねーか」
「そうじゃなくて、『リーナ』じゃなくて『莉那』って呼んでってこと。現実世界でキャラ名で呼ばれたら、SAO生還者に確実にバレる」
「名前の間を伸ばすか伸ばさねえかの違いだし、別にいいじゃねえか。つうかとっくにバレてると思うけどな。俺なんて碌に考えてねえから、本名そのまんまだったしよ」
「それでも。私は莉那って呼んでほしい」
他の誰かならともかく、貴方には、そう呼んでほしい。
あの剣の世界に生きた攻略組の短剣使いではなく、一人の女の子として、東伏見莉那として、一護の傍に居たいから。
鈍い貴方にとっては「たかが一文字」なんだろうけど、私にとっては、大きな違いがあるのだから。
一護はいつものようにオレンジ色の髪をガリガリと掻き乱した後、分かったと頷いた。
「んじゃ、行こうぜ莉那。皆が待ってる」
「――うんっ」
自分の芯に、ぽっ、と火が灯るのが分かる。冷たい秋の風も、もう気にならない。
恋は盲目、なんて言うけれど、本当にそう思う。この人といれば、きっとどんな困難も苦にならない。自信を持って言い切れる。彼にとって、私もそういう存在になりたいと、改めて思った。
黒埼一護。
かけがえのない、初恋の人。
現実世界でもやっぱり彼は強く、そして逞しかった。あの二年で失ったものを取り戻し、得たものを手に持ち、現実を強く生きている。
見ているだけで力をもらえる。それほどに、彼の姿は生きる意志に溢れていた。
そんな彼の心に、今の私ではまだ届かない。
けれど、いつか必ずたどり着いてみせる。
この身一片、魂一欠片を尽くして。
焦がれる想いを告げる、その日まで。
――手加減なんて、しないんだから。
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