十九話:憧れ
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人間が今この場では正義の味方を張り続けようとしている。
思わず、そのことに自嘲気な笑みを零してしまう。
それでも人を救うという欲望に終わりなど来ることはない。
何故なら、彼は―――
―――叶うことなら、目に見える者全てを救いたいと願ってしまうのだから。
目を覚ます。鼻腔にツンとした消毒液の匂いが充満する。
そこでここは病院なのだろうと理解して体を置き上がらせる。
すると、ベッド脇にいた姉がすぐに抱き着いてきた。
「スバルッ!」
「ギンガ、怪我人にいきなり抱き着くもんじゃねえよ」
「あ、ごめんスバル。痛くなかった?」
「う、うん。平気だよ、ギン姉」
少女、スバルはどこか現実味がなさそうな顔をしながら父と姉を見つめる。
その瞳に、父、ゲンヤは僅かに目を細めるが姉であるギンガは気づかない。
―――変わった。何がとは言えないが間違いなく変わったのが分かる。
しかし、あれだけの経験をしたのだからある意味で当然かと思い、父はそこで思考を止める。
「ギン姉は大丈夫だったの?」
「私は……スバルを助けに行こうとしたんだけど、その前に見つかって連れ戻されちゃったの」
「そっか、ありがとうね、ギン姉。あたしを助けようとしてくれて」
反省しているのか、助けに行けなかったことを恥じているのか表情を暗くするギンガ。
そんな姉にスバルは自分を助けようとしてくれたことに感謝の笑みを浮かべる。
礼を言われたことに面を食らうギンガだったが、それ以上にその笑みに何か違和感を抱き、内心で首をひねる。
「そうだ、あたしを助けてくれた人、知らない?」
「んー、お前を助けた奴は良く分からねぇんだよな。陸士でも本局の奴でもねぇみたいだしな」
「他にもスバルみたいに正体不明の人に救われた人が3人いるみたいなの」
一般人が救助活動をしてくれたのだろうと救助隊の方で表彰しようという話になったのだが、何処を探しても見つからないために小さな噂になっているのだ。
それを聞いて、スバルは残念そうな顔をする。
何故だか、彼とはもう一度会いたいと思ってしまったのだ。
否、あの笑顔がどういったものなのかを聞いてみたかったのだ。
「突然現れて、礼も受けずに消えたからその人達はこんな風に呼んでいたわ」
ギンガは特に意識することもなく、伝え聞いたことを口にする。
それが妹の生涯の指針となってしまうことも知らずに。
妹を救った人間の正体はその真反対に位置するものだとも知らずに。
「―――正義の味方って」
決して叶うことのない願いであり、同時に呪いの言葉である名前を口にする。
「正義の……味方……」
スバルはその名前を復唱する。
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