十九話:憧れ
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だが、名も知らない誰かを救うことに固執して大切な者を見失っていた。
救いたいという欲望に駆られて愛する者を危機の淵に追い込んだ。
あの時、アインスの声に応えていれば、もっと上手い方法で少女を救っていれば。
そもそも、自分がドゥーエを監視していれば。アインスを第一に考えていれば。
こんなことにはならなかった。彼女は傷つかずに済んだ。
果たして、自分に彼女を愛することなど可能だったのだろうか。
彼は力なくうなだれて、血を流す彼女を呆然と見つめる。
それでも自分が誰かを救ったという証だけは離せない。
そんな余りにも惨めな様子にもアインスは微笑みを向けて口を開く。
「お前を……愛しているからに……決まっているだろう」
その言葉に切嗣はどうしようもない絶望感を抱いてしまった。
そうだ、これこそが人のあるべき姿だ。愛する者の為にその命すら差し出す。
当たり前の行動であるはずだ。だというのに、自分はそれができない。
心の底から愛しているはずなのに、その死を加速する真似しかしない。
アインスの手を縋るように握る。その手は火傷だらけで酷いありさまだった。
それも当然だろう。今の彼女に魔法は使えない。それは単純に魔力がないからだ。
ここまで来られたのはスカリエッティかウーノの力を借りて転移してきたのだろう。
それでも、こんな自分を助けるために彼女はこの地獄を生身で彷徨ってくれたのだ。
正しい選択ならば最愛の女性すら容赦なく切り捨てるような最低の男の為に。
誰かを救えたことに浮かれて彼女のことを忘れるような救いようのない男の為に。
この愛おしいはずの体は傷だらけになってしまったのだ。
せめて、彼女が以前のように騎士甲冑を身につけられればと思うがそれは不可能だ。
管制人格の起動はそもそも400頁を超えなければ成り立たなかった。
理由は単純に管制人格と闇の書を分離させて実体化し、起動するために魔力が必要だからだ。
そして、他の守護騎士達と違い魔力は自分自身で生成するのではなく闇の書から供給される。
これは魔力タンクを外付けにすることでユニゾン時に半永久的に魔力を使うことができるようにした悪意ある改造の名残だ。
その為に記憶と人格を引き継いだだけである彼女には魔力を溜める器官がないのだ。
夜天の書に記されていた魔法だけでなく、彼女自身が記憶していたものも同様に使えない。
つまり、彼女は魔法を扱う才能はあっても、生み出すことはできない状態なのだ。
こればかりは以前の夜天の書のデータがないのでスカリエッティですら復元しかできなかった。
だから彼女は己の身を守ることもできなければ、自身の体を癒すこともできない。
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