第39話 徳川慶喜の憂鬱
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大阪城に拠点を移した徳川慶喜は歯ぎしりを繰り返していた。
(何故、こうなった?)
大政奉還より一気に幕府の威厳は坂道を転がり落ちるように失意し、王政復古の大号令の時でさえ、その場に呼ばれることすらなかった。
薩摩、長州側とも会談をと思い、奔走するも長州は聞く耳ももたない有様。そうこうしているうちに鳥羽伏見で戦が勃発。
慶喜は頭を抱えた。
(300年天下泰平を支えたのは徳川だ。それが何故こうもないがしろにするのだ)
確かに幕府は弱体しきっている。
借金の為に刀を売る武士。賄賂で肥え太る役人そして商人達。
が、しかし、槍や刀で勝てる戦など、最早なきに等しい。
「これからは、鉄砲の時代が来る。刀や槍を使える武将が、足軽どもに打たれて逃げ惑う。なんとも、滑稽ではないか」
確かにそうなった。
家康公も然りだ。
(確か織田信長公が言っていたと聞いたな)
それでもだ。
土佐の山内容堂が薩長に付いた事がショックだった。
聞くところによると、大号令の時に慶喜をないがしろにするのはよくないと岩倉具視に喰ってかかったという。が、結局はこちらに付くということは朝廷にはむかうことになると岩倉具視に恫喝され討幕軍へ寝返ってしまった。
(どいつもこいつも・・・・・・・・・・)
慶喜は、戦など望んではいなかった。
出来れば和議を行い、もし、幕府が必要でないのなら潔く将軍を辞し、幕府に幕を引いていた。が、始まってしまった。
両方、振り上げた拳を引くことはできないだろう。ならば。
「慶喜公、入りまするぞ」
松平容保の声が聞こえた。
「はいれ」
慶喜は穏やかな声で容保に答えた。
部屋に入った慶喜と容保は対峙する形で座っている。
お互い声を発することなく相手の目を見据え、相手の出方をうかがっていた。
「容保殿」
最初に口を開いたのは、慶喜のほうだった。
「はっ」
容保は慶喜に深々とお辞儀をした。
「頭を上げられよ、容保殿」
容保は頭をあげ、慶喜の顔を見た。そこには、優しい笑顔があった。
「容保殿、余は一度、江戸にもどろうと思う」
穏やかな声で慶喜は言った。
「な、なんと!!」
容保はその言葉に驚愕した。何故なら、最早、戦の幕は上がってしまったのだから。
「ですが、慶喜公、そんなことをしては」
「わかっておる!!」
容保が言い終わる前に慶喜は言葉を切った。
「わかっておるのだ、容保殿。そんなことをすれば、幕府についてくれた大名の者たち、幕府の為に戦ってくれている者たちの士気がさがる」
「では、わかっていながら何故に」
容保は袴をぐっと握った。
「容保殿、貴殿も解っているのだろう?」
慶喜は悔しさを押し殺し笑顔をみせた。
「この戦は負ける。なれば、江戸にもどり、余は天子様の裁定を待とうと思う。まして、江戸を戦火
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