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第一章
心理
事件が起こった現場は橋の下だった。上には山の手線が走っている。
被害者は腹を刺されて倒れていた。しかも何度も刺されている。
それを見て若い刑事は顔を顰めさせていた。そのうえで冷たいアスファルトに横たわる被害者を見下ろしているのだった。
「はじめてだったかな」
「はい」
そのうえで隣にいる年配の刑事の言葉に頷いた。若い刑事も年配の刑事もそれぞれスーツにトレンチコートだ。それぞれ黒っぽい色のスーツの上に若い刑事はクリーム色の、年配の刑事はダークグリーンのトレンチコートといった姿である。
若い刑事は黒髪を中央で分けている。細長く何処か鹿を思わせる顔だ。すらりとした身体で背が高い。
年配の刑事はそれに対して黒髪に白いものが混じりその髪を上にあげている。皺があるが落ち着いた感じの端整な顔をしている。
その年配の刑事が若い刑事に対して言ってきた。
「岩隈巡査長」
「はい」
「刑事課に入ってどれだけだった?」
「二月です」
それだけだと答えるのだった。二人の周りでは制服の警官達や鑑識官が動き回っている。その中で二人は立って話をしているのだった。
「二月ですけれど」
「そうか。もう二月か」
「梨田警部は」
「三十年だよ」
それだけの歳月を過ごしているというのだ。
「もうな」
「三十年ですか。長いですね」
「それだけの年季があるさ。それでだ」
「はい、それで」
「この事件はすぐに解決するよ」
梨田は笑ってこう言うのだった。
「すぐにね」
「何でそう思えるんですか?」
「今夜またここに来よう」
梨田は岩隈の問いには答えなかった。こう言うのだった。
「またな」
「今夜ここにですか」
「この被害者は通り魔じゃない」
梨田はその被害者を見下ろしながら述べた。
「間違いなくな」
「何でそれがわかるんですか?」
「見るんだ」
こう言って被害者をまた見てみせてそれを岩隈にも促す。
「滅多刺しになってるな」
「はい」
「それも心臓なり腹なりを何度も。喉も刺されている」
「酷いものですね。何度も何度もって」
「通り魔ならここまではしない」
梨田はまた言った。
「被害者に怨みを持っていないとだ」
「怨みをですか」
「そうだ、怨みをだ」
まさにそれに基くものだというのだ。
「持っていないとな」
「じゃあこれは怨恨ですか」
「絶対にな」
それは確実だというのだ。
「これは間違いないな」
「怨恨ですか。それじゃあ被害者の知人を回ってみますか」
「いや、それよりもだ」
ここで梨田はさらに言うのだった。
「今夜だ」
「その今夜ですか」
「そう、今夜ここに張り込む」
それをしようというの
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