巻ノ二十八 屋敷その十一
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「謀神とまで言われた毛利元就殿は別格にしてじゃ」
「戦国の世は」
「そうした謀も必要ですな」
「そうなのじゃ、わしにしてもじゃ」
他ならぬ昌幸自身にしてもとだ、彼は息子達に話した。
「謀は使う」
「ですな、父上も」
「必要な時は」
「武田家にお仕えしていた時から」
「そうしていましたな」
「お館様もそうであられた」
彼等の主だった信玄自身もというのだ。
「勘助殿もおられたしな」
「山本殿ですか」
その名を聞いてだ、信之はこう言った。
「それがしはお名前を聞いただけですが」
「そうであるな、あの方は川中島で討ち死にされた」
「ですから」
「しかしじゃ」
「その謀もですな」
「見事であられてな」
「信玄様を助けておられたのですな」
信之は強い声で父に応えた。
「そうだったのですな」
「そうであった、織田家も然りだった」
「軍師がおられましたな」
「あの家はその都度軍師役がおった」
天下人であった織田信長の下にはというのだ。
「羽柴殿や明智殿、丹羽殿とな」
「その都度ですな」
「策を出せる家臣の方がおられた」
「そしてそれがですか」
「織田家の強みでもありましたか」
「そうであった、やはり謀は必要なのじゃ」
戦にも政にもというのだ。
「どうしてもな」
「しかし徳川家にはそれがない」
「そういうことですな」
「そうじゃ」
「それが戦いやすくもありますが」
幸村も言う。
「我等にとっては」
「敵としてはな」
「しかしそれは」
「うむ、徳川家にとってはな」
「よくありませぬな」
「弱みとなる」
徳川家にとってはというのだ。
「これからもな」
「特に、ですな」
あえてだ、幸村はこう言った。
「天下人となられる為には」
「徳川殿が天下人になられるか」
「その器ではあると思いますが」
幸村はその目を光らせて言った。
「あの方も」
「そうか、そう見るか」
「拙者は」
「どうやら御主はわしが思っていた以上の者じゃな」
「と、いいますと」
「言われてみればそうじゃ」
確かに、という口調での言葉だった。今の昌幸は。
「あの方もな」
「天下人の器だと」
「そうじゃ、羽柴殿もそうであるが」
「あの方も」
「そうした方じゃ」
「しかしです」
「うむ、天下人になられるにはじゃ」
その為にはというのだ、まさに。
「謀も必要でじゃ」
「軍師が必要ですな」
「そうなる、そういえば政では本多正信殿が戻って来られたという」
「あの謀士の」
信之は本多正信の名を聞いて目の動きを止めた。
「一向一揆で一向宗につき長く徳川家を離れておられましたが」
「あの方が戻ったという」
「それでは謀は」
「少なくとも政では備わったか、しか
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