エル・ファシル戦勃発
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、貴官はどう考える」
実戦経験者としてコリアンは司令部で一目置かれていた。その発言はリンチ少将の決断に影響力を持つ。
「威力偵察の可能性も考えられます。敵に後続の本隊が存在するしないに関わらず、放置は出来ません」
罠の餌であっても嫌でも戦うしかない。そう言う事だった。
「あの」
末席に居たヤンが挙手して発言の許可を求める。
「ヤン中尉、何だ」
「住民を置いて逃げてはどうでしょうか。敵も住民を虐待しては占領統治が進みません。一部に無法を働く者が居たとしても看過できる被害でしょう。敵の足止めにも使えますし、その間に第4艦隊と合流出来ます」
司令部の時間が一瞬、止まった。次の瞬間、ポーク准将が激怒した。
「貴官は、市民を守る同盟軍士官としての自覚は無いのか」
「警備隊の戦力は貴重です。最悪、司令部さえ残ればエル・ファシルは取り戻せるでしょう」
ヤンは平然と答え、コリアンは元生徒の答えが妥当である事を認めた。
(戦略的には正しいが、政治的には正しくない)
コリアンが意見を言おうとしたら、リンチ少将が口を開いた。
「ヤン中尉、貴官の考えは分かった。だがしかし」
リンチ少将は眼光鋭く言った。
「軍は市民を絶対に見捨てない」
視線をそらしたヤンは意気消沈としながら着席する。
「警備隊の全艦艇に出港命令」
リンチ少将は予ての計画に従って迎撃と住民の避難を進めた。そしてヤンに名誉挽回の機会を与えた。
「ヤン中尉は住民の退去を任せる」
素直に命令を受けたヤン。コリアンは揉め事は懲り懲りだと一息ついた。
「ミンチ少佐」
ポーク准将に呼ばれた。
「第40010駆逐隊司令のタイラー少佐が負傷した」
会議に来る途中、階段を踏み外して重傷だと言う。
「出撃前に災難ですね」
「ミンチ少佐、貴官には脱出組の護衛に付いて貰う。おめでとう、現場復帰だな。タイラーの後任を頼むぞ」
突然の事で引き継ぎも簡単ではない。だから居残り組をコリアンは任された。
警備隊は全力出動する。破れた後の護衛は雀の涙にしか成らないが、居ないよりはましだ。
「最後の盾ですね」
最悪の場合、警備隊は全滅。コリアンも市民を逃がす盾に成る事を求められた。
責任感が希薄に見えるヤンには任せられない仕事だった。
「尻拭いをさせる事になるが、すまんな」
出撃するポーク准将、残るコリアン。どちらも負ければ死しか待っていない。
「健闘を祈ります」
互いに敬礼をして別れた。
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