その瞳の遺したもの
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がっていたのだろうが、言うつもりはない。ナイフを振り向けることはできても、言葉を振り向けるような勇気は俺にはなかった。
俺の心にあるのは虚無感だけだった。いったい、なにをどうすれば良かったのだろう。問いかけてみても、誰も答えてはくれない。
なにかを、どこかで間違えてしまった。俺のせいなのか、俺以外のせいなのかは、もうどうでもいいことだった。重要なのは、俺の人生がもう修正不可能なところに来てしまっている、ということだけだ。
だから、きっと俺が幸福になるためには──。
突然の振動と爆音。地震かと思うほどの揺れが、俺の身体に伝わってきた。
さらに二度、三度と爆音が続き、銃声が響く。音のすべては上階から聞こえてきている。
「なん、だ?」
恐る恐る俺は鉄格子へと近づく。だが目の前にある上階への階段からは、なにも見ることができなかった。それでも異常事態だということだけは分かる。
銃声に絶叫。大勢の人間が生み出す振動が、巨大なものとなって天井を揺らしていた。
俺は鉄格子のそばに不安な心持ちで立っていたが、すべきことが見つからない。こうしていても仕方ないので、壁際にまた座り込んだ。
恐らく何者かが侵入、あるいは襲撃してきたのだろう。そうであるなら逃げ出したかったが、ほかの人間たちも俺どころではないだろう。収まるまで待つしかなかった。
思いのほか、俺の頭は落ち着いていた。死ぬかもしれない。そのことに巨大な恐怖を抱いたが、感情を無視するのは得意だった。
しばらくすると、少しずつ音が遠ざかっていった。天井の揺れも収まり、戦いは終わったのだと俺は安堵した。
次の瞬間、牢屋全体に衝撃が走った。先ほどまでとは比べものにならないほどの振動が発生。思わず俺は床に手をついてしまう。
爆発のような轟音が上階から鳴り響いていた。音が連なるにつれて振動がどんどん増幅していく。
そしてついに天井が崩落。巨大な瓦礫が落下してきて、俺の身体は衝撃によって吹き飛ばされてしまう。
壁に激突。全身に激痛が走る。視界が土埃で埋まっていてよく見えないが、どうやら横に派手に吹き飛ばされて、別の壁にぶつかったようだった。
爆音と振動のすべてが収まっていた。なにが起こったのかさっぱり分からなかったが、瓦礫を登ればなんとか上階に出られそうだった。
身体を起こそうとしたところで、腹部から激しい痛み。視線を落として自分の腹を見ると、細い鉄パイプのようなものが三本、刺さっていた。
「……うそ、だろ」
冗談のような言葉が自分の口から勝手に出ていった。状況を認識したせいか、思考を塗りつぶすほどの痛みが俺に襲いかかる。
「あぁああああああああっ!!」
絶叫。腹部が鼓動するかのような感覚。膨れ上がるたびに、俺は耐え切れずに叫び声をあげていた。
腹部か
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