映し出されたもの
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相手は俺の問いかけには答えなかった。だが非力なおかげで、まだ刺されずに済んでいた。
十秒ほど拮抗したままでいると、突然部屋の明かりがつけられた。扉のほうを見ると、蒼麻と桜さんが立っていた。
俺が助けを請うよりも先に桜さんが動き、俺の上に乗っていた人間を床に引きずり倒した。傭兵だけあって、目にも留まらぬ速さだった。
「た、助かった……」
全身から一気に力が抜けていく。危険から脱したことで、遅れて恐怖がやってくる。それでも、頭の中の混乱はいまだに収まってはいなかった。
寝台にへたり込む俺を尻目に、桜さんと蒼麻は驚いた顔で犯人のほうを見ていた。俺もそれに倣い相手を見る。その瞬間、言葉を失った。
「ゆ……雄二?」
そこにいたのは友人の雄二だった。桜さんに腕を背中で捻りあげられ、床に倒されている。俺はさらに混乱した。いったいなにが起きてるのか、まったく分からない。
「雄二っ、いったいどうしてこんなことを!?」
入り口に立っている蒼麻が驚きの声をあげていた。俺はまだ言葉を発することができない。
「……答えろ、雄二。何故だ」
桜さんも雄二に問いかけるが、雄二は答えようとしなかった。
俺の理性は混乱しながらも原因をつきとめろ、と言っていた。恐怖と困惑のために身体は、思うように声を発してくれない。それでも俺は、無理やりにでも言葉を出そうとした。
「ど、どうしてだっ!? どうしてお前が、俺を!!」
張り付く口を強引に開いた瞬間、恐怖と驚愕が入り混じった声が俺の喉から吹き出した。それを聞いた雄二が、初めて顔をあげた。
「……っ!!」
俺の背中が、氷になったかのように冷え切った。雄二の暗い眼孔の奥には、憎悪などという言葉では言い表せないほどの、深海のように重いなにかがあった。俺は直視することができず、目線をそらした。
身体に震えがきて、思わず両腕を抱いてしまう。表現できない恐怖が全身を支配した。
「だ、大丈夫!?」
蒼麻の心配そうな声が遠くに聞こえる。視界が徐々に薄れていき、俺は意識を失った。
次の日になって、俺は雄二がどうなったかを知った。
この組織の長の指示で、雄二は地下牢に入れられた。どういう処分をするのかはしばらくしてから決めるらしい。警察などは俺たちがいた世界のようには働いていないようだ。この世界の、こういった法があやふやな部分が、俺は嫌いだった。
面会を申し込むと、渋い顔をされた。それでも俺は頼み込んで鉄格子越しに話す許可をもらった。
本人に直接、理由を聞きたかった。あんなことをした、というよりは、あんな目をする理由をどうしても知りたかった。俺が知らず知らずのうちに、あいつになにをしてしまったのかを。
地下に続く階段を降りると、目の前が牢屋だった。広さは八畳程度で、電気は通じてい
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