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幸福の十分条件
映し出されたもの
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て、ここでこうしているのだろうか。いったいなんのために。
 なにかの罰としか思えなかった。両親に従わなかったせいなのか。それとも、両親の期待どおりにできなかったせいなのか。俺が無能なせいなのか。いったいどこからが俺のせいで、どこからが俺のせいではないのだろうか。
 俺は、自分自身に起こった、すべての物事の原因を探していた。この苦痛の、理由と意味を探していた。それさえ見つかれば、まだ耐えられるかもしれない。だが、見つからなかった。俺の苦痛の原因をなすりつけられるようなものは、なにひとつとしてなかったのだ。あるとすれば、それは俺自身以外にはなかった。
 それでも俺は、自分が悪いのだと思うことに疲れてしまっていた。立ち上がるだけの気力が、俺にはもうなかった。
 重力に従うままに、首を倒す。視界の端で、光り輝くものがあった。希望のように見えたそれは、机に突き刺さったナイフだった。
 汚れひとつない刀身が、鏡のように俺の顔を映し出していた。そこには、見たことのない顔があった。
 二つの漆黒の穴が、俺を覗き込んでいた。


「あー、疲れた」
 業務である通路掃除の、夜間の分を終えて俺は部屋に戻ってきていた。単純労働とはいえ、この施設は大きいためにそれなりの疲労がある。
 寝台に寝転がると、疲労が抜けていく感覚が全身に広がる。リラックスしながら、俺は今日あったことをなんとなく振り返っていた。今日はいい発見があったからだ。
 かんざしをつけた桜さんは綺麗だった。普段はなんというか、仏頂面だけど、女らしい格好をしたらかなりの美人なんだろう。もしかすると蒼麻以上の変化があるかもしれない。
「そういえば、飯のときに雄二いなかったな。いつもはいるのに」
 ふと、無口な友人のことを思い出した。具合でも悪くしてなければいいが。雄二のことは明日聞くことに決めて、俺は部屋の明かりを消して眠りについた。
 しばらくして、俺は物音で目が覚めた。誰かがトイレに行くために通路を歩いているのか、と思ったがどうも違う。扉の開閉音が明らかに至近距離から聞こえてきた。
 恐る恐る薄目を開けて確認してみると、寝台のすぐ傍に誰かが立っていた。暗くて顔はよく見えない。
 視界の端に鈍く光るものが見えた。そこから暗い腕が続き、肩に繋がる。なにかを振りかざしているのだと気がついた瞬間、俺の腕が反射的に跳ね上がっていた。
 同時に腕に衝撃。俺の腕が相手の腕を受け止めていた。相手が振り下ろしたナイフの切っ先が、目のすぐ先で止まっている。
 襲撃してきたなにものかは俺の上に馬乗りになると、両手でナイフを押し込んできた。両腕に力を込めて反発し、なんとか拮抗させる。
 咄嗟の判断が働いたが、俺の頭は突然の出来事に完全に混乱していた。
「だ、誰だお前は!? なんで、こんなことを!」

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