暁 〜小説投稿サイト〜
幸福の十分条件
映し出されたもの
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元だった。サラシを巻いて誤魔化していたらしいが、それでも多少は膨らみがあったのだろう。
 だが、俺が蒼麻が女だと知って驚かなかった一番の理由は、怜司にベタついていたからだ。あの男に関わる人間なのだから、どうせ女なのだろう、とずっと思っていた。女だというなら、ベタついているのも、声が高いのも、風呂掃除を仕事にしているのも、納得がいく。恐らく、風呂には掃除するついでにこっそり入っていたのだろう。
 ただ驚きはしなかったが、胸にサラシを巻いて男装するなんていう無茶苦茶が目の前で行われると、なんだか腹が立つ。普通、隠しきれるわけがない。相変わらず怜司の強運は恐ろしい。まぁ、俺もはっきりとは気がつかなかったんだが。
「……驚いていたさ。ただ、顔に出にくいんでね」
 理由を正直に答えるわけにもいかず、俺は適当なことをでっち上げた。
「ふーん、そっか。怜司なんか凄い狼狽してたんだよ? あの顔は見せたかったなぁ」
 顔とやらを思い出しているのか、蒼麻は楽しげに笑っていた。まったくもってどうでもいい。
 ちなみに怜司がどうやって知ったのか、俺は経緯を知らない。どうせ、風呂場でばったり出くわしでもしたのだろう。よくある話だ。
 気分が良い感じに沸騰してきたところで、ご本人が部屋からご登場なさった。
「あ、おそーい」
「悪い悪い、昼寝してたもんで、って抱きつくな!」
 出てきた怜司の腰に蒼麻が両腕で抱きつき、怜司が抵抗する。以前と変わらない状況だが、怜司の顔が微妙に赤くなっていて、抵抗が弱まっていた。蒼麻の顔も赤いのが見ていて腹が立つ。
 怜司に女だとバレて以来、蒼麻は男装をやめて女だと分かる格好にはなったものの、振る舞いはほとんど変わらなかった。嫌がるのを楽しむことが、恥ずかしがるのを楽しむことに変わったぐらいだ。
 そのことにももちろん、俺は驚かなかった。よくあるだろ。
「雄二もいるならちょうどいいや。一緒に飯食おうぜ」
 いつもどおりの申し出に、俺の心にはいつもどおり不快感が訪れた。しかし抵抗するのも面倒だったので、三人で食事をとることにした。
 食事中にこれといって変わったことはなかった。怜司が喋り、蒼麻が余計なことを言い、怜司がそれに突っこみを入れて、といういつもの流れを見せられていた。そのままなにが起こることもなく昼食を終えて、俺は部屋に戻った。
 それから適当に時間を潰して、みんなが寝静まったころに倉庫へと移動。仕事を始めた。
 倉庫内に作業の音がかすかに響いている。俺は作業用の机の前に座って、マガジンにひたすら銃弾を詰めていた。これが俺の仕事だ。
 割り振られた仕事の内容としては、こういった銃器のメンテナンスではあったが、各々の専用の装備はそれぞれが自分で調節をするし、自分でできない部分については専門の技師に頼む。となると必然
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