別の世界
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取り戻すことができた。ただし当たり前だが、俺の体力は戻ってくれなかった。引きこもりに肉体労働は辛い。
少し集団から離れたところで休憩をとる。怜司が十兵衛に指示を出し、紅葉のやり方を褒めて、ちょっかいを出してくる蒼麻をいなし、桜に話しかけていた。
そう、あいつは人に囲まれていた。俺はそれが、無性に気に入らなかった。あの男を見るたびに、やりきれない思いがして、胸の奥がざわついた。
あいつが人に囲まれていることそのものは疑問に思わないし、俺がひとりだということにも不思議なところはない。どちらも、当たり前の話だ。だから、嫉妬しているわけではなかった。
だが、異世界に偶然やってくるという同じ境遇にも関わらず、これといった困難もなく順応して、いつのまにか成功しているあいつを見ると、怒りに似た感情が沸き起こってきた。あいつはまるで、俺が今まで読んできた本に出てくる主人公そのものだった。あまりにも、運が良すぎる。
対して自分はどうか。以前とほとんど変わらない生活。問題はなにひとつとして解決しないままだ。
ああ、分かっているさ。それが自分のせいだっていうことは。自分がどれだけ無能で、怠慢であるかはよく理解しているつもりだ。
それでも、ああやって似たような境遇の男が成功しているのを見ると、なによりも現実を突きつけられた気分になる。俺がどういう人間なのか、浮き彫りにされたような気分になる。
だから──俺は、怜司が嫌いだった。
「おい、どうした。疲れたか?」
じっとしたまま動かないでいた俺を不審に思ったのか、怜司が声をかけてきた。俺はすぐに、持っていた掃除道具を怜司に押し付けた。
「……ああ。悪いが、休ませてもらう」
俺は返事も聞かずに自室へと向かい、さっさと部屋の中に入った。
この世界も以前の世界も大差はない。ただ、現実が最悪の形になって、目の前に現れただけだ。
深夜。今日の分の仕事はする気が起きなかったので、俺は早々に寝台の中に潜りこんだ。足腰が痛むし、相変わらず寝台は硬い。この中に入ると、異世界にいるのだということをはっきりと意識する。
昼間の仕事は散々だった。特に、最後の状況は精神的な辛さが大きかった。
俺が怜司を嫌っていることについて、怜司に非がないことは分かっている。客観的に見れば、積極的に俺に声をかけるあいつは、俺に気を使っているとさえ言えるのだろう。人が人を嫌いになるということは、こんな風に理屈に合わないことなのかもしれない。とはいえ、酷い反応だと自分でも思う。自己嫌悪というものが、俺の中にはあった。
もしも俺がもう少しでもまともなのであれば、怜司との関係を良好にして、友人というものに囲まれる可能性もあったのだろう。だが、今の俺はそれを望みさえもしていなかった。自分が友人に囲まれている状況どころ
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