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幸福の十分条件
別の世界
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る。口元も黒い布地で覆っていて、目元だけが表へと出ていた。俺たちの世界でいうところの、忍者そっくりの格好だった。
 この子は十兵衛という。なんでもこちらの世界に来た直後の怜司と出会い、それ以来付き従っているらしい。名前が男っぽいのはこう見えてなにかの師範代だったか党首だったかで、引き継いだものだと以前言っていた。
 年齢は十代前半と言っていたような気がする。異世界人であるために、見た目から年齢が推測しづらい。
「あぁ、俺が誘ったんだよ。たまにはどうだ、って」
 俺が口を開こうとしたとき、怜司が先に答えた。
「ふむ。たまには拙者も手伝うでござる」
 そう言った十兵衛の足元から煙が吹き出し、晴れたときには箒を持っていた。ますます忍者っぽい。
 二人から三人に増えて掃除を続けていると、そこにまた別の少女がやってきた。
 十兵衛より少しは伸びた背に、袴姿と草履。群青色の髪を左右で房にしていて、毛先が胸近くまできている。
 こっちの子は紅葉(くれは)という。まだ十四、五の少女だがここの傭兵だそうだ。戦場では長槍をぶん回しているらしいが、とても想像がつかない。この子はこの子で、怜司に何故だか懐いている。
「わたしも、手伝う」
 ゆっくりと、しかしはっきりとした声で紅葉はそう言って、箒を手に持った。
「お、ありがとう。じゃあ紅葉はあっちのほうを掃いてくれるか?」
 怜司が指差した方向を見ると、彼女は「わかった」と言って小さく頷いた。
 そしてなにを思ったのか、床に箒の先端を押し付けると身を軽く屈め、爆走! 埃の軌跡を残しながら、瞬く間に紅葉の背中が数十メートル先に到達する。そこからさらに加速。あまりの速さに道中にいた小人たちが、突風に煽られたかのように吹き飛ばされていく。ついでに埃も吹き飛んでいる。これでは掃除の意味がない。
 呆然としている俺たちの脇を、別の風が走り抜けていく。十兵衛が箒を持ったまま疾走していた。紅葉以上の加速を見せて、一秒も経たないうちに彼女に並んでいた。
「紅葉殿。それでは掃除にならんでござる。もっとゆっくり丁寧にしなくては」
「……そうなの?」
 十兵衛の言葉を聞いて紅葉が急停止。草履で通路が擦られ、車でいうところのブレーキ痕ができあがっていた。十兵衛は減速せずに跳躍。壁から天井に跳ね上がり、さらに逆さになって天井を蹴り反転。見事な三点飛びで、紅葉の隣に着地した。
 二人が駆け抜けた周辺にはぶっ倒れた小人たちが散乱。まるで戦場のようだったが、俺たちがいるのはただの通路で、やりたいのは敵の一掃ではなく汚れの一掃だ。
「……人間びっくりショーだったな」
「……ああ」
 怜司と俺は開いた口がなかなか塞がらなかった。怜司は驚愕を通り越して呆れ顔になっていたが、俺もきっと同じような顔をしているのだろう。こいつと同じ
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