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幸福の十分条件
別の世界
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 黙り込んでいる俺に代わって、桜が怜司に答えた。
「黙ったまま? 喋ればいいじゃないっすかー」
 怜司が馬鹿っぽく笑っている。うるさい黙れ、お前は蒼麻とでも乳繰り合っていればいい。
 そう言いたくてたまらなかったが、そんな勇気はないし怜司にも悪気はないだろう。こいつはこういうやつだ……死ねばいいのに。
 黙り続ける俺を不思議に思ったのか、怜司が首を傾げていた。さっき桜が同じ動作をしていたせいで無性に腹が立つ。怜司が悪いわけではないのだが。
「俺も混ざっていいっすかね」
 俺がなにを考えているかは分からないらしく、怜司は桜の隣に座ろうとしていた。本当に空気の読めないヤツだ。
 もう湯のみの中身は空っぽになっていたので俺は席を立った。桜も同じだったが、彼女は怜司の相手をするようだ。
「またな」
 席を離れようとした俺に桜が声をかけてくれた。その一言に、俺は嬉しさのあまり小さく頷くのが精一杯だった。


 次の日。俺は怜司に誘われて一緒に食事をした後、何故だか掃除の仕事まで付き合うはめになった。
 モップをかけながら、通路を端から端へと往復運動をする。一時間しかやっていないのに、すでに腕が痛かった。怜司は俺と同じぐらい細身にも関わらず、慣れているせいか平気そうだ。
 足元に感触。視線を落とすと、俺の足に小人がぶつかってきていた。尻餅をついていたが、起き上がると手に持った極小のモップで掃除を再開。
 ファンタジーな世界らしく、この世界にはこういった小人がいる。造形はほぼ人間だが二頭身になっていて背丈は五センチ程度。なんだかよくわからない鳴き声をするが、こっちの言葉は分かるらしい。俺たちが掃除している周囲に数十匹ぐらいいて、一部を除いて掃除っぽいことをしている。
 怜司のやつは彼らに指示が出せるらしい。どうやって意思の疎通をしているかしらないが、小人たちは怜司に従っていた。彼らはいつの間にかこの施設に住み着いていたらしいが、彼らが従うのは怜司だけのようだ。
 自分で言っていてなにがなんだか分からない。だが、とにかくそういうことで、怜司は小人を使役して掃除をさせていた。本当に役に立ってるかは大いに疑問だが。
 疲労の溜まってきた腰を逆方向に折りながら、俺は怜司を見た。単調な作業を、嫌な顔ひとつせずに続けている。
 この世界にきてから、以前と比べて変化した部分は二つ。どちらも怜司によってもたらされたものだった。変化の片方は、俺にとって幸福そのもので、そこは感謝している。
 だがそれを差し引いても、俺はこの男が好きではなかった。
「怜司殿に雄二殿。掃除でござるか」
 唐突に、真上から声。続けて、俺たちの前に影が降り立つ。
 現れたのは小柄な少女だった。一四五センチぐらいの小さな背丈に黒装束。黒い頭巾の隙間から白い髪が覗いてい
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