別の世界
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なにやら薄気味悪い歌を口ずさむ蒼麻を、怜司が必死に引きはがそうとしている。男同士の絡みを見て喜ぶのは、同性愛の人間か一部の女たちだけだ。俺はどちらでもないので部屋に戻ることにした。
おかしなやつらだが、俺に話しかける人間がいるというのは、以前とは違う部分だった。俺は怜司のことが苦手なために、あまり嬉しくはないのだが。
変化についてはもうひとつある。そちらは生活に与える影響は小さいが、しかし、俺にとってはとてつもなく大きいものであり、かつ、かなり嬉しい変化だった。
軽く昼寝をしてから昼食をとり、自室にこもっている間に夜になっていた。
部屋には寝台、本棚、机が、四畳程度の広さに配置されている。机の上にはこれといってなにも乗っていないが、本棚にはいくつか本が揃えられていた。
こちらの世界にも小説の類はあって、基本的にはそれを読んで時間を潰している。ようするに俺の生活自体は、なにひとつとして変わっていないということだ──と、言いたいところだったがこちらにも小さな変化ぐらいはあった。実家暮らしではなくなったがために、労働をする必要があったのだ。内容はいたって単純で、倉庫にある武器の簡単な手入れだ。ここは傭兵集団なので、仕事もそれに関連したものが多い。
ちなみに怜司は掃除全般。蒼麻は夜中に大浴場の手入れをしているらしい。そういった仕事もあったが俺は肉体労働に向いておらず、さらに連携行動もとれないので、こういう地味で、ひとりでもできる仕事を割り当ててもらった。時間に関わらずできるという点も都合が良かった。人と出くわすのがとにかく嫌なので、主に他の住民が寝静まった夜中に俺は作業をしている。
寝台に寝転がって本を読んでいると、腹から空腹を知らせる音が鳴った。時計を見ると夕食の時間になっていたので、俺は本を棚に戻して部屋から出た。
通路に出ると、ちょうど目の前を女が横切っていった。俺の目が無意識に彼女を追ってしまう。
黒絹のように美しく、光沢のある艶やかな黒髪。それを頭の後ろでひとつに纏めている。細く長い黒眉に切れ長の目尻。煙水晶のように深い色合いの双眸。それらに整った鼻梁が続き、最後に朱色の唇で終わる。薄く焼けた綺麗な肌の首から下は和装に包まれていて、胸の僅かな膨らみ以外の体の線を覆い隠していた。歩くたびに見える白い足首や、髪型のせいで見えているうなじには、かなり色香があった。
控えめに言っても美人だ。目鼻立ちはそれほどはっきりしていなくて、格好からも俺たちのような東洋人に近いものを感じる。和装の着こなし、その美しさには思わず目を奪われてしまう。
彼女の名前は桜。この傭兵集団に所属している傭兵の一人で、俺の気に入っている相手だ。気に入っているというのはつまり、好きだってことだ。通路で初めて見かけた瞬間にそうなった。
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