彼の世界
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している自覚はあったが気にしたことはない。
そうしてあっという間に数時間が経過して夕食の時間になった。毎日決まった時間なので、今から向かうとちょうどいい。
扉を出て食堂へ向かう途中で、使用人が声をかけてきた。
「雄二様、今夜のご夕食は旦那様と奥様がご一緒されるそうです。お嬢様はご友人のところで食事を取られるそうで」
その一言で自分の顔が険しくなったのが分かった。妹がいないのはいいが、両親がいるのは最悪以外の何物でもない。
小さく頷いてから俺は再び歩き始めた。だがその足取りは最初よりもはるかに重かった。
食堂に入ると先に席についている両親がいた。軽く会釈をして俺も席につく。二人は俺を一瞥すると何も言わず視線を逸らした。両親からすれば俺は見るのも嫌なのだろう。俺もそうなのだからお互い様だ。
すぐに食事の用意がされて食べ始めることとなったが、ここからが厄介だ。両親は当たり前だったがテーブルマナーにうるさい。そのことを俺は知ってはいたが、月に一度あるかないかのこのときのために普段からマナーを保持しておく、という努力はできなかった。
些細なミスでも父が睨むように俺を見て、見下すように鼻を鳴らす。怒鳴られたり文句を言われたりということは、もう何年も前からされなくなった。だとしても俺には恐怖でしかなかった。今も手が軽く震えて冷や汗が出てくる。緊張のせいで味など分からない。
なるべく機械的に速やかに、目立たないように動作を続ける。まるで拷問されているような気分だ。 一体自分がなんの作業をしているのか、だんだん分からなくなってくる。心臓の音が煩いぐらいに大きい。親の視線を感じるだけでナイフを突きつけられるような気分になる。
ふと気がつくと両親は食べ終わっていた。一方で自分はまだ半分以上残っていた。
父が使用人になにかを話すと、二人揃って席を立った。これでやっとこの拷問から抜け出せる。そう思っていたところで、俺の後ろで父が立ち止まった。
「──食事もまともに取れない無能め」
小声でそう言うと何事もなかったように両親は食堂からいなくなった。これが、何ヶ月かぶりに聞いた父の言葉だった。
反論などなかった。全くもって父の言うとおりで、俺はこの家において無能以外の何物でもない。両親の反応や言葉は完全に正しい。どこも間違っちゃいない。間違っているとしたら俺だ。
だというのに、そんなことは分かりきっているというのに──突き刺されたかのように胸に痛みが走った。何かが胸の奥で広がっていき、圧迫されるように苦しくなる。抑えようとしても抑えきれずに破裂した。その瞬間、俺は嗚咽を漏らして泣き始めていた。自分がどうして泣いているのかが俺には分からなかった。
数分ほど経ってから食事を再開した。とっくに味を感じられなくなっていたし両親もい
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