彼の世界
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。キッチンにも直結していて、必要なときには使用人が配膳をしたり、あるいは待機したりする。
すでにテーブルの上にはひとり分の食事が置いてあって、俺は席について食べ始めた。別に暮らしてるのが俺だけってわけじゃない。他の住民はもう出かけてしまっているだけだ。
家族は両親と妹が一人。両親は家にいることが少なく、妹は部活に入っているらしくて朝が早い。結果として、ここ最近は食事をひとりで取ることが多かった。少し前までは妹と二人だったのだが。
食事の気分はいつも複雑だった。この家に生まれて良かったと思える点があるとするなら、寝台の質が良いことと、食事が美味しいことぐらいだ。だから食事そのものは好きだったのだが、環境は良くなかった。妹と食べるのは少し辛いし、ひとりで食べるというのも、このいやに広い空間が孤独感を煽ってきて鬱陶しい。ひとりでいるのは好きだが、ひとりだということを意識させられるのは嫌いだった。
そういうわけで、俺は手早く食事を終えた。もしもなにも気にすることなく食べられるのなら、きっともっと美味しいのだろう。
席を立ったところで使用人が皿を下げるためにキッチンの方から出てきた。会話も面倒なので、俺はさっさと食堂を出ることにした。
足早に玄関へと行って靴を履き替え、扉に手をかける。後ろから気配がして、もっと急がなかったことを後悔した。
「いってらっしゃいませ、雄二様」
見送りにきたのはまた使用人だったが、初老の男だった。所謂執事というやつでこの家でもっとも長く勤めている。俺が子供の頃から居たはずだ。
正直言って、あまり好きではなかった。
「くれぐれも、外での振る舞いには気を遣われますように。雄二様の行いがこの家の名に影響を与えますことをお忘れなく」
このように毎朝毎朝律儀に俺に注意を促してくる。昔からこうだった。もっとも、彼としては職務を全うしているだけなので怒りは起こらない。確かに俺は注意されなければならないような人間だった。
「……いってきます」
小声で答えて今度こそ俺は外に出た。扉は重かった。まるで牢獄のように。
「…………はぁ」
外に出るなり俺は溜息をついた。安堵の息だった。
この世界で唯一安らげる場所があるとするならそれは自室だが、この世界でもっとも恐ろしい場所は自室以外の家の中だった。あそこは一歩進むごとに嫌なものがある。何十年もそうだったせいで、もう麻痺してきていたが。
無意味に大きい門を抜けて街道に出る。振り返ればそこには巨大な洋館がそびえ立っていた。これが俺の家で、生まれ育った場所だった。
両親は実業家というやつだった。何代も続く由緒ある家柄で、父はその何代目かの当主。母の家柄も誰も文句をつけない程のものらしく、誰から見ても完全なる成功者たちだった。
そんな彼らの唯一の汚
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