暁 〜小説投稿サイト〜
幸福の十分条件
彼の世界
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ばかりなせいで筋肉は殆どない。どこを見ても良いところが全くなくて大勢の中に入ってしまえば埋もれてしまうような奴。居ても居なくても誰も気にしないような人間が俺だった。今まで毎日見てきて、これからも毎日見ることになると思うと嫌気が差してくる。そんなことを思っていても仕方ないので、感情を隅に押しやって忘れることにした。
 手で適当に髪を整えた後、服装のどこかがおかしくないか確認。こういう細かい部分についても両親はうるさかった。そのことに疑問や苛立ちや、煩わしさはなかったが。幼いころからそう言われていたし、そういうものなのだと諦めていた。
 結局、おかしなところは見当たらなかった。強いて言うなら鏡に映っているのが俺だということぐらいだ。
 準備を終えてから扉の前に立つ。憂鬱な気分が心に広がった。安心していられるのはここまでだ。外に出れば否が応にも現実が襲いかかってくる。その全てに俺は晒されることとなる。気持ちを落ち着かせるために深呼吸をした。これもいつものことだと諦める気持ちが戻ってきてくれて、俺は扉に手をかけた。



 部屋の扉を開けると、視界一杯に広がる陽光に目が眩んだ。
 自室は廊下に繋がっている。廊下は中庭に面していて、中庭側には窓が連なっていた。それらが外の明かりを取り込んでいるのだ。窓の周囲や、反対側の壁は白を基調とした色合い。至る所が綺麗に磨き上げられていて陽光を反射している。おかげで廊下は俺の部屋とは正反対に、押し付けがましいほどに開放感に満ち満ちていた。
 窓から外を一瞥すれば広大な中庭が見える。緑の茂みに色とりどりの花が飾ってあって……まぁ、どうでもいい。花の種類も教えられたがとっくの昔に忘れた。俺には色が沢山ある、程度の感想しか出てこない。今日も庭師が朝から働いていて、この風景も昨日と今日では違うらしいが俺には違いが分からなかった。昔から興味がない。
 廊下の赤絨毯の上をゆっくりと歩いていく。足取りが重い。これもいつものことだった。外にいるときはほぼ常に気分が悪いがそのせいなのか、それとも元来の気質なのかもう区別がつかなかった。
 しばらく歩くと使用人と出くわした。比較的最近入った、若い女の使用人だった。彼女は俺の姿を見ると深々と頭を下げてきた。
「雄二様、おはようございます」
 こちらも会釈をして返す。こういうやり取りは苦手で、相手からすれば顔を軽く傾けた程度にしか見えないかもしれないが。
 挨拶でさえ億劫だ。だから使用人と遭遇するのも嫌だった。彼女は少しの間、俺の顔色を伺うとそそくさと仕事に戻っていった。
 廊下を進み、階段を降りて、また廊下を進むと食堂に到着した。何とか二人目の使用人と遭遇せずに済んだ。
 食堂は二十畳ぐらいの広さで、中央に長テーブルが置いてある。十数人で食事をしてもなんら不自由ない構成だ
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