第3章 黄昏のノクターン 2022/12
34話 造り物の心
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と息を吐いた。緩慢とした動作で空を仰ぐ動作がむしろ恐怖を煽る。
「これは、君達が書き纏めたものではないね。しっかりと目を通したかい?」
「いや、俺は一ページ目だけしか………」
「実に面白いものだ。これほどまでに『誰かに生き延びてほしい』という感情の籠った報告書は、そうそう見られたものではない。それに、彼等の戦法についてここまで精緻な情報を得るには、少なからず身を危険に晒さねばなるまい。その観察眼も胆力も非常に優秀なものだ。貴重な情報を提供して頂き、感謝する………良い友人を持ったな」
――――これからも、その友人を大切にするといい。
年長者の持つ、どこか深みのある声音で、最後にそれだけ告げて、肩に手をポンと置かれる。
「………俺を、信じるのか?」
「疑う理由など無いさ。その指輪が受け取られた瞬間から、君達は我々の友なのだからね」
無機質な存在と、俺は彼を思ってしまっていたが、その認識を撤回しよう。
ティルネルと出会った時から気付くべきだった。もっと早くから認識するべきだったのだ。
――――この世界はゲームであっても、無機質な世界ではない、と。
「しかし、毒を使うとは厄介だ。この街の道具屋では既に欠品を起こしている。どうにか用意したいところだが………」
「その点については問題ない。仲間が店売りのポーションよりも性能の良いモノを作れる。今から作らせるから全員に配備してくれ」
「助かる………と、言いたいところだが、材料は足りるのか?」
「………あ、どうだったかな」
危うく諸手を挙げて安堵するところを、コルネリオは冷静な助言で頭を冷やしてくれる。
しかし、それを決して咎めるでもなく、彼は極めて冷静に手近な部下の一人に声を掛けた。
「アドルフォ、頼まれ事を聞いてもらえるか?」
「は、はい! 光栄ッス!」
アドルフォと呼ばれた黒服は、まだ若いように見えた。高校生くらいの年代だろうか。
光栄という言葉に社交辞令的な意味合いを感じさせないほどに、やや興奮気味に返された返事を受け、コルネリオは満足そうに頷く。
「良い返事だ。では、至急市場まで向かい、薬品の原料に使えそうな薬草を木箱五つほど買って来てくれ。金に糸目はつけない。無論、最高級品だけを選りすぐるように」
「………へ?」
まるで忠犬を思わせるアドルフォは先の気合に満ちた返事から一転、放られた長財布を両手で受け取るものの、理解が追いつかずに疑問符を頭上に浮かべた。
「聞こえなかったのか? ………私は薬草を買ってくるように言ったのだよ」
しかし、コルネリオには説明に時間を割く意思も、一度下した命令を取り下げる意思も持ち合わせてはいなかったらしく、《朔》
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