3部分:第三章
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てくれた夫人に対して答える。これは実際に見たうえでの言葉である。
「酒までな。絶品揃いだ」
「主人は何しろ味に五月蝿くて」
彼女は今日事切れたばかりの夫を懐かしむ声で太子に説明するのであった。その声が実に痛々しく悲しいものであった。
「それで」
「そうだったか。では次は」
彼はその話を聞きながらさらに言うのだった。
「ローズ卿のところに行きたいのだが」
「こちらです」
案内されたのは奥の部屋であった。部屋の中は意外と質素だ。単なる風景画と窓がありそこにはカーテンもない。床にも絨毯といった豪華なものはなかった。あくまで質素な部屋だった。目立つのはベッドだがそれすらも天幕のものではない簡素なものであった。
「ここか」
「驚かれましたか?」
夫人はこう太子に言ってきた。
「この部屋に」
「質素だな」
驚くとは述べずこう述べるのだった。
「食道楽だが。それだけか」
「はい、主人は口は肥えていましたがそれ以外の贅沢には興味がありませんでした」16
「それもよくある話だな」
「そうなのですか」
「贅を極めるかそれとも一つのものに凝るか」
彼は言った。
「人はどちらかだ。ローズ卿は凝る者だったのだな」
「そうなのでしょう。他の遊びもしませんでしたし」
「それはそれでいいことだ。少なくとも食は他人に危害は及ばさない」
「はい」
「精々己の身体を壊すだけだ。少なくとも」
そうして言う。
「ローズ卿は他人を害してまで何かをする者ではなかった。その彼がな」
「これも。運命でしょうか」
「そうかも知れない」
いささか冷徹な声で夫人に言うのだった。
「人が死ぬも生きるも。人が決められるものではない」
「神が決められるのですか」
「それとも悪魔が」
実は彼はあまり神というものを信じてはいない。はっきり言えば無神論者であった。だからこそ宗教にもかなり冷淡なのだ。実を言えば聖職者への課税も彼の提案である。そうした特権も好まないが何よりも神を楯にして私腹を肥やす彼等が気に食わないのである。もっとも第一の理由はやはり財政難の解決であるが。それにしても原因は教会の民衆への搾取というのだから実に性質の悪い話であった。
「それはわからないがな。それで」
「ええ」
ここで話が動いた。
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