Chapter 5. 『あんたを倒して俺は帰る』
Episode 32. The End of Imagination
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、一護君、リーナ君」
静かにそう告げ、茅場は歩を進めた。数瞬後、彼の姿は霧のように掻き消え、あとには何も残っていなかった。ただ、変わらない夕焼けの空が、白衣の男がいた場所を朱く照らすばかりだった。
茅場の祝福の言葉に、一護は何も言い返さなかった。ただ茅場のいた場所を見つめ、表情を微塵も崩さぬまま、ひたすらに黙している。
その姿が何故かどうしようもない哀しみに満ちているように見えて、私はそっと近寄り、彼の大きな手を握った。優しい熱が彼の手から伝わり、私の体に滲みこんでいくように感じた。
「……貴方がそれ以上哀しむことはない、一護」
知らず、私は慰めるような言葉を口にしていた。
例えそれが彼には必要のないものだとしても、必要であっても彼がそれを望まないと分かっていても、止めることができなかった。
ただ、悲哀に染まった彼の顔を見るのがつらくて。見ていると心が張り裂けそうで。そんな私のワガママに抗いきれず、私は言葉を続けた。
「貴方は多くの人を救った。これから失われるかもしれなかった命を救い、失われるはずだった時間を取り戻した。
亡くなった人たちがいることは、私も哀しい。けど、その命の責任までは貴方にない。それはあの男が死ぬまで背負うべきもの。一護、貴方はしゃんと胸を張っていればいいの。だから――」
「……分かってるさ」
言葉を遮り、一護が視線を私に向けた。
「俺はスーパーマンじゃねえから、全員の命を救うなんて大それたことは言えねえし、そんなことは誰にもできねえ。ホンモノの、『全知全能』の神様でもねえ限りよ。だから、分かってんだ。俺が抱え込んだって何にもなんねえことぐらいな。
ただなんつーか、それでもちょっとやりきれなくて、気分が沈んでたってだけだ」
そう言った彼の顔は、もういつものしかめっ面だった。それに安心して、私はきゅっと彼の手を握る。
このまま彼の胸に身体を預けても良かったのだけれど、それだと彼の表情が見えなくなる。今はまだ、この距離から彼の顔を見上げていたかった。
「帰って落ち着いたら、連中の供養にでも行かねえか? こんだけデカい事件になったんだ。個別の墓の場所なんてわかんなくても、慰霊碑の一つぐらいは出来るだろうしな」
「それ、デートのお誘い? 現実での初デートの行先が慰霊碑なんて、中々新鮮なんだけど」
「……オメーの頭ん中はどうなってんだよ。マジで雰囲気台無しじゃねーか」
ため息を吐いて、一護が髪をガリガリと掻く。
貴方の言う「雰囲気」が恋人ムードのことを指していたのなら嬉しかったのだけど、そんな都合のいいことはない。単にシリアスムードがふっ飛んだことが、ちょっと不満なんだろう。全く、相変わらず鈍いんだから。
……でも、そん
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