9話 鉄と鉛の創傷(ウーンド)
[6/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
。同情と似たような行為だ。口ぶりから、マシロが他界していることを知っていた。
「ああ。好きだった。今でも好きだ。時より話すよ」
クロノスは死んでいることを“未だ”語るつもりはなかったらしい。だが、リーナにはお見透視。むしろ哀れだと思わせるばかりだ。
「15歳…だったかな?お互いそんくらいの年齢になった頃に、飼い主の経済的事情でマシロは売りだされた。女の子だし、美人だったから…変態には高く売れたんだろう」
クロノスは涙を浮かべる。彼女に、リーナに、マシロを投影してしまったのだ。
「マシロはある風俗店に売られた。いくらだったのだろう。知らないけど」
「…」
リーナは深刻にクロノスを見た。
「済まない」
クロノスは涙で顔全体を歪ませる。
「いつも。いつも私は誰かの代わり」
リーナは独り言を呟く。
「続けて結構いいわ」
クロノスは涙を拭い口を開く。自分で傷口を開き、それを見せるのは初めてだった。
「マシロは捨てられていたんだ。未だ幼かったんだ。体が保たなかった」
クロノスは言葉を濁す。リーナは何を言いたかったのかわかった。
「駄目だな。俺も。リーナ、済まない。君を…」
「マシロさんをと私を混ぜて考えているのでしょ?」
リーナはクロノスの言葉を遮って彼の頬を拭った。
「さっき言っていた、誰かの代わりって…」
クロノスは右頬に置かれたリーナの左手を自分の左手で撫でるように触れる。
「カリヒさんには多分。幼いころに生き別れた女の子が居るのでしょう。多分外見は私と似ていません。ですが存在を私を投影しています」
「ああ。カリヒの妹だ…」
クロノスは落ちた声で話す。
「妹でしたか…」
リーナは緩やかな声を出したが、遮られる。クロノスは彼女の腰に左手を回し、自分の体に引き寄せて居た。
「本当に済まない。君はそれを引きずっていると言うのに。俺は君にマシロの面影を求めている」
「構わないわ」
「君の優しさに甘えて!」
「別にいいわ」
「本当に!」
途端。彼の耳元にマシロは騒いだ。
『私はあの子じゃない!』
クロノスは怯えた。
死神は彼を乗っ取った。いや。正確には彼を脅した。
クロノスは即座にリーナを体から離す。その拍子にリーナは尻もちをついた。クロノスは引き金に手を当てる。
鉛がリーナを劈く。
「え?」
リーナの脳内はカリヒでいっぱいだった。
幼い頃に助けられた時。
戦争のための訓練を受けた時。
同じ戦場をかけた時。
一緒に御飯を食べた時。
いつもカリヒが隣りにいた。カリヒが居た。それだけが彼女の唯一の救いでしかなかった。
もしも…カリヒに出会って居なければ。
彼女は奴隷のまま死んでいた。
生きながらえたとしても、ここまで辿りつけなかっ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ