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ホテル

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れとしたものだ。
「何もわかりませんよ」
「そのうちネットで噂になって大変なことになるぞ」
「それはどうでしょうかね」
 とぼけるのを続ける。実に面の皮が厚い。
「都市伝説に過ぎません」
「リアルな都市伝説だな、本当に人が何人も消えるなんてな」
「まあお話はここまでで」
 男は話を強引に打ち切ってきた。やはりそこには図太さが感じられた。そうした話は慣れているといったところであろうか。
「他のお客様の迷惑になります」
「おっと、そうだったな」
 口の端を歪めて笑う。今丁度ミニスカートに黒いストッキングの厚化粧をした長い茶色の髪の女の子が一人で入ってきたところであった。身なりではなく一人で店に入って来たことから彼女が何なのかわかる。一見すれば普通の女の子に見えなくもないが。というよりはホテルの外で見ればそうも見えなくはない。
「二〇三号室です」
「わかりました」
 カウンターの男がそれに応える。そしてあらためてその女の子に言った。
「どうぞ」
「はい」
 女の子は一言応えてからエレベーターに入った。エレベーターが閉まり動く音が聞こえてきた。部屋に向かっているのである。
「繁盛しているみたいだな」
「休みなしですよ」
「そうだな。じゃあ今からその部屋に行かせてもらう」
 山根は言った。今度は感情のない声になっていた。
「いいな」
「はい、鍵です」
 古いタイプの部屋のナンバーが入れられたガラス棒付きの鍵が手渡された。ラブホテルではまだこうした形式の鍵が多いのである。古いが風情があるのも事実だ。
 鍵を受け取ると挨拶もせずに階段へと向かう。エレベーターはさっきホテトル嬢の女の子が使ったからだ。山根は尾松を連れて階段へと進んで行った。
「へっ」
 そんな二人を見送ってカウンターの男は悪態をついた。
「やっと行きやがったか。ったくよお」
 やはり警官が来て嬉しいということはないのだ。そういう手の風俗嬢が出入りしていて警官が来て嬉しい者なぞいない。例えその店が届出をちゃんとしていてもだ。面白くないものは面白くないのである。
 山根もそれは承知している。だがそれをあえて無視してホテルの中へと入ったのである。それは何故か。それが仕事だからだ。因果なものだとは思っていても顔に出すことはない。
 その部屋は十階の端にある。このホテルは十階建てだから屋上がすぐ上にある形となる。山根は今その部屋に入ったのであった。部屋の中は真っ暗で中は見えはしなかった。
 山根が入るとその後に尾松が続く。まずは部屋の灯りを点けた。
「普通ならここで興奮してくるんだがな」
 山根は苦笑を浮かべて呟いた。
「生憎そうはいかないな」
「男同士ですね」
「しかも
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