アインクラッド編
平穏な日々
長い長い休息を
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動かないでくださいと言いました」
「いや、それはそうだけど……あの、何をしてるんですかって……」
僕の当惑の声は完全に無視されて、それから僕の頭を抱えている腕に一層の力が篭る。
立っているアスナさんと座っている僕との位置関係上、そんなことをすればアスナさんのアマリと比べるべくもない立派な胸部(こんなことをアマリに言ったら殺される)に顔を埋めることになるわけで。 けれどアスナさんはそれに動揺している僕に気づいていないのか、あるいは気づいて無視しているのか、そのまま僕の髪を撫で始めた。
「ねえ、フォラス君」
それは、とても懐かしい呼ばれ方だった。
僕とアスナさんが決定的に対立してから、ただの一度も使われなかったそれ。
「キリト君が殺されそうになってるのを見て、色々わかったよ」
そして紡がれる声音はまだ仲が良かった頃のように穏やかで
「ねえ、フォラス君」
あの頃のように暖かかった。
「大切な人が傷つけられるって、こんなに痛かったんだね。 私、そんなこともわからなかった……」
「アスナさん?」
「わかってあげられなくてごめんね。 今更だけど、あの時フォラス君を責めたりして、本当にごめんね……」
気がつけば髪にパタパタと滴が落ちてくる。
それが何かなんて考えるまでもない。
「ごめんね、フォラス君」
「謝らないで。 僕も謝らないから」
「ふふ……」
「…………?」
「フォラス君ならそう言うって思ってた」
「えっと、それはそれとしてアスナさん。 それそれ離してくれるとありがたいって言いますか、離してくれないと困ると言いますか……」
「離しません。 だってこれ、フォラス君の罰だもん」
言って、アスナさんは更に力を込める。
「フォラス君。 ありがと」
「えっ……?」
「キリト君のピンチを教えてくれてありがとう。 私を助けてくれてありがとう。 クラディールを殺してくれて、ありがとう」
「ーーーーっ」
それはアスナさんが絶対に言ってはいけない言葉。
だけど、その言葉に力は何もなく、ただひたすらに優しいだけだった。
ありがとう。
それだけが僕の胸に突き刺さり、緩んでいた涙腺が更に緩む。
そして僕は泣いた。
声を上げず、ただアスナさんに縋るように泣いた。
人前で泣くなんて何年ぶりだろう。 少なくともここに来てからは初めてで、なのにアスナさんは笑わなかった。
笑わず、一緒になって泣いてくれた。
声を上げずになく僕の代わりに、わんわんと泣いてくれた。
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