十七話:至誠通天
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はは! 間違っている? 違うね、衛宮切嗣。この世界には最初から絶対的に正しいことなど存在しない。それは君もよく知っているはずだ。正しくあればあるほどに人は人でなくなっていく。それは君ですら間違いだと思うものだろう?」
「それでも間違っているものは間違っている!」
「いやいや、正しいという定義が定められない以上はその反対の間違いの定義も定められない。
白黒ハッキリできるものなど学校のテストぐらいなものだよ」
狂っている。何度もこの男に抱いていた感情をこの場でも感じさせられる。
悪魔の頭脳という代名詞はただ単純に高すぎる知能故につけられたものではない。
この、常人には決して理解することのできない異常な精神性故に、人とは一線を画す存在としてその名をつけられたのだ。
「君は君の欲望の赴くままに動けばいい。私がそれを正義にしてみせよう―――奇跡をもってね」
「……何を企んでいる、スカリエッティ?」
「なに、君の願いである全ての犠牲者の救済、そして恒久的に平和な世界を創り上げようとしてあげているだけだよ、私は」
明らかに“だけ”とは言えない絵空事を簡単に語るスカリエッティ。
しかし、彼が言えばそれはただの絵空事ではない。
いかなる方法をもってしてでも己の欲望を叶えてしまう。
それが、アルハザードの遺児、ジェイル・スカリエッティである。
「それだけじゃ、答えになっていないぞ。スカリエ……ッ!」
「そういえば、リインフォースT以来かね、君が誰かを救えるのは」
なおも食って掛かろうとしたところであの声が聞こえてくる。
燃え盛る炎の中から聞こえてくるどこまでも純粋な願いの声。
救いを求め、残された生で必死にあがき続ける者達の言葉。
―――助けて。
その声を聞いた瞬間に切嗣の表情は凍り付き、目も当てられぬ様になる。
だが、スカリエッティはそんな彼の表情を心底楽しそうに見つめ声をかける。
誰かを救いたいという願いを切嗣が再び叶えるには、明確な犠牲者が、弱者が必要なのだ。
理不尽に奪われ、その生命を危機に晒される、正義の味方の為の舞台装置が。
「―――喜べ、衛宮切嗣。君の願いは再び叶う」
最後にたっぷりと溜めたセリフを言い残しモニターが消える。
切嗣はモニターが消えた場所を無言で見つめながら怒りと悔しさから体を震わせる。
こんなものを望んでいたわけではない。こんなことをしたかったわけではない。
こんなものが―――救いのはずがない。
「ふざけるな…ッ」
様々な想いが込められた重く苦しい言葉を煙火の中に吐き捨て切嗣は炎の中に飛び込む。
こんなことをする権利もなければ、スカリエッティを糾弾する権利もない。
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