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ソードアート・オンライン -旋律の奏者-
アインクラッド編
平穏な日々
紅色の策略 05
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、ギリギリの位置で細剣を止めてしまった。

 「ッヒャアアアアア??」

 そんな決定的な隙を見逃すような良識を、目の前の殺人者は持っていなかった。 当然だ。 何しろ、この手のプレイヤーが考えていることはただひとつ。
 殺すことだけ、なのだから。

 甲高い金属音が周囲に響き、アスナの手から細剣が弾き飛ばされる。 短い悲鳴をあげながらも体勢を整えようとするが既に遅かった。

 絶叫と共に撒き散らされるどす黒い赤のライトエフェクトを、アスナはどうしてか酷く冷静に見ていた。

 ーーーー私は何もわかってなかった
 ーーーーフォラスさんのこと
 ーーーーアマリのこと
 ーーーー大切な人が殺されると言うこと
 ーーーー何も、何も、本当に何もわかってなかった

 それは懺悔だったのかもしれない。
 減速した世界でグルグルと回り続ける思考の渦に飲み込まれながら、アスナは笑い出してしまいたい気分だった。

 実際にクラディールがキリトを殺そうとしている現場を見て、アスナは間違いなく狂ったのだ。
 かつてあれだけ責め立てたフォラスと同様に、ただただ狂気に支配され、敵を殺すこと以外の思考は消失した。

 ーーーー私もフォラスさんと……ううん、フォラス君と同じ
 ーーーー今ならちょっと、フォラス君の気持ちがわかるよ
 ーーーーねえ、フォラス君。 今更だけど、あの時のことを謝ったら許してくれる?
 ーーーー多分、君は笑ってこう言うよね……
 ーーーー『謝らないで』って……
 ーーーー『僕も謝らないから』って……
 ーーーーああ、最後にもう一度、あの頃みたいに笑い合いたかったなー
 ーーーーキリト君とアマリとフォラス君と、それから私で、もう一度……

 「アアアア甘ぇーーーーーんだよ副団長様アアアアアア??」

 振り下ろされる大剣の切っ先を見つめ、けれどアスナの意識はそこにはもうなかった。
 だからこそ気がつくのが遅れたのだろう。

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 トンと、軽やかな突きでモーションから外れた大剣は、その身に纏わせていたどす黒い赤のライトエフェクトを霧散させ、持ち主に多大な硬直を強いる。

 剣技阻害(スキルキャンセル)
 ソードスキルが攻撃判定を持つ直前の一瞬を狙い、その武器を僅かにずらすだけの地味な技。 しかし、それはソードスキルに対して絶対的な防御となり得る。

 それ自体は割とポピュラーなシステム外スキルだが、アスナはこれが誰の手によるものかわかっていた。


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