第四章
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「あの時の殿はとかくうつけ者と言われておった」
「はい、確かに」
そのことについてはその通りだとだ、滝川も答えた。
「そうでしたな」
「だからわしも殿は駄目だと思っておった」
「それで勘十郎様に仕えておられましたな」
「そうじゃった、それはわしが殿を知らなかった故じゃ」
その不明もだ、柴田は自ら認めた。
「愚かなことじゃった、しかし御主は違ったな」
「まあ何と申しますか」
滝川はここでは首を少し傾げさせて答えた。
「そのことは」
「殿に仕えた理由は何故じゃ」
「はい、確かに殿に仕官に願い出ました」
滝川は柴田にこのことから答えた。
「それで仕えるのを認めて頂きましたが」
「織田家の他の方には申し出なかったのか」
「申し出ても尾張の者ではない、身分が低い身なりが悪いとです」
「その時着ていた服が悪かったか」
「そうでした、何しろ甲賀から出てきましたので」
そこから尾張までの道中で服が破けたり汚れたりしていたというのだ。
「忍の者も間に合っている、鉄砲もいらぬと」
「そう言われてか」
「織田家の他の方には仕官出来ませんでした」
「しかし殿はか」
「まずそれがしの出は一切気に止められませんでした」
尾張の出でないことも身分が低いこともというのだ。
「身なりも」
「確かに殿はそうしたことは一切に気になされぬな」
「それでご自身の目でそれがしの忍の術と鉄砲の腕を見て頂き」
「召し抱えられたということか」
「武士にして頂きました」
「それで殿に仕えた次第か」
「そうです、しかも殿はそれからも何かとそれがしに仕事を下さり褒美もどんどん下さり身分も上げて下さっています」
今では織田家の重臣であるというのだ。
「この様な有り難いことはありませぬ」
「つまりあれか。殿に認められたからか」
「はい、あの頃より殿にお仕えしています」
「そして今もか」
「それがしの様な身分の低い余所者でも」
実力さえあれば重臣にする、その信長のことだ。
「取り立てて下さるのです、その恩は決して忘れませぬ」
「左様か、わかった」
ここまで聞いてだ、柴田は確かな声で頷いた。
「全てな。御主のことも殿のこともな」
「左様ですか」
「やはりわしは愚かじゃ、殿のそうしたところがわからなかったわ」
信行に仕えていた頃はとだ、柴田は笑って言った。
「これからそうしたことはせぬ」
「そう言われますか」
「その殿にこれからはな」
「お仕えしてですか」
「殿の為に尽くそう」
「ではそれがしも」
「うむ、共に織田家の為に尽くそうぞ」
こう滝川に言ってだ、彼の盃に酒を注ぎ込んだ。そして二人で酒を飲むのだった。
滝川一益は織田家四天王の一人とさえ言われている、その出自ははっきりしないところも
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