第三章
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「百姓じゃったが今ではな」
「はい、あの様に武士となり」
「めきめきと頭角を表していますな」
「それにです」
「久助殿も」
「あの者は昔は何でもないと思っておった」
信行に仕えていた時の自分の言葉をだ、柴田は思い出していた。
「何故殿が召し抱えておられるかわからなかった」
「ですな、何故あの様な身分の低い者を重用しているのか」
「わかりませんでした」
「しかし殿は優れた者ならば身分が低くとも用いられる」
「尾張以外の国の生まれでも」
「そして我等の様に敵だった者達も」
「用いられます」
その者に才があればだ、彼等もそのことがわかった。
「だから久助殿もですな」
「重く用いておられますな」
「左様ですな」
「そうじゃ、しかしまだ気になることがある」
「と、いいますと」
「それは」
「うむ、何故殿に仕えたのか」
滝川自身がというのだ。
「それがわからぬ」
「ですな、あの時の殿はです」
「実にわかりにくい方でした」
「それでもですな」
「殿のお傍にいつもいましたな」
「久助殿は」
「そうじゃった、それは又左達もじゃったがな」
滝川もというのだ。
「特に最近あ奴は取り立ててもらっておるから余計にな」
「気になりますな」
「権六殿も」
「少し聞いてみるか」
柴田は袖の中で手を組んで言った。
「これよりな」
「はい、では」
「これよりですな」
「権六殿が自らですな」
「久助殿に聞いてみますな」
「わしは隠しごとも曲がったことも出来ぬ」
性分的にだ、柴田はそうした男だ。
だから滝川に直接聞いてみることにした、そして実際に彼の屋敷に酒とつまみを持って行ってだ、共に飲みながら問うた。
「御主は最初から殿に仕えておったな」
「尾張に来た時からですな」
「うむ、それは何故じゃ」
こう単刀直入に問うた。
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