第四章
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「よいな、皆出るのじゃ」
「わかりました」
「さすれば」
「急ぐのじゃ」
こうしてだった、加藤は屋敷の中から全ての者を出させて庭に集めた。見れば誰もが難を逃れてはいた。
だが屋敷は相当に傷んだ、かろうじてまだ建ってはいるが。
屋根は崩れ瓦は相当に落ちてだ、傾いてもいた。
その様子を見てだ、加藤は言った。
「これはいかん」
「はい、建て替えなくてはなりませぬな」
「この有様では」
「もう今にも崩れそうです」
「このままでは」
「殿下はご無事か」
加藤家つまり自分達の屋敷のことを気にする家臣達にだ、加藤はこう返した。
「この有様では殿下も難に遭っているやも知れぬ」
「殿下がですか」
「この地震で」
「殿下は何処におられる」
秀吉の所在を聞くのだった。
「一体」
「はい、今は伏見にです」
「この伏見におられます」
「伏見城にです」
「そこにおられます」
「そうか、この揺れでは伏見城も危うい」
険しい顔での言葉だった。
「それではな」
「それでは?」
「それではといいますと」
「すぐに伏見城に向かうぞ」
こう家臣達に告げた。
「皆の者わしについて参れ、すぐに伏見城に向かうぞ」
「あの、殿」
「しかしです」
「殿はです」
「今は」
「閉門だというのじゃな」
すぐにだ、加藤は家臣達に答えた。
「今のわしは」
「左様です」
「ですから」
「今は」
「閉門だというのに殿下の御前に参上しては」
「どの様な処罰を受けるか」
「そんなことを言っておる場合か」
加藤は止める家臣達に強い声で返した。
「今は。殿下の危急ぞ」
「では処罰は」
「それを受けようとも」
「そんなものは後で幾らでも受ける」
加藤はこうも答えた。
「では行くぞ」
「そうですか、そう仰いますか」
「まずは殿下ですな」
「ですな、それでこそです」
「我等の殿です」
家臣達は加藤の言葉と心を受けてだ、微笑んでだった。
互いに微笑んでだ、そしてだった。
彼等はだ、こう加藤に言った。
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