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剣の丘に花は咲く 
第四章 誓約の水精霊
第九話 剣 
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も変わらなかった。
 分からない……分からない彼が……理解出来ない……見返りも求めず、何でそんなに優しくしてくれるのか……普通の女の子に笑いかけるように、優しく笑いかけてくれるのか……。
 
 鉛のように杖が重い。顔を上げられない。今にも膝を着こうとするアンリエッタの肩に、ウェールズが手を置いた。のろのろと顔を上げるアンリエッタに、ウェールズは変わらない……変わらない冷たい笑顔を向けてくる。

「さあ、アンリエッタ」

 ウェールズに導かれるまま、アンリエッタは士郎と戦う騎士に、キュルケの炎から身を守るため、水の鎧をまとわりつかせる。

「さあ、アンリエッタ」

 言われるがまま、さらに呪文を続ける。隣には同じように、ウェールズが呪文を唱えている。
 呪文が交じり合い始めると……アンリエッタとウェールズの前に、水を纏った竜巻が渦を巻き始めた。
 『水』『水』『水』『風』『風』『風』……水と風の六乗による、その魔法は、王家のみに許された魔法、へクサゴン・スペル。完成した魔法は、城さえ一撃で吹き飛ばすだろう、自然災害の如き魔法。
 ゆっくりと、しかし着実に成長する竜巻の前には、不死の騎士団と戦っている士郎がいる。
 舞い踊るように剣を振るう士郎に、一度目をやったアンリエッタは、強く目を閉じ、杖を士郎目掛け振り下ろした。








「これは、とんでもないな」

 向かってくる水の巨大な竜巻は、その巨大差に反した速度で向かってくる。迫る巨大な竜巻を目にしても、欠片も焦る様子を見せずに、士郎はデルフリンガーに声を掛けた。

「デルフ、ちょっとばかり無理をする。ついて来れるか?」
「何言ってやがる相棒っ! オレッちはお前の剣だ。好きに使ってくれ!!」 
「はっ! 上等だデルフ! 気合を入れろ……行くぞっ!」

 威嚇するかの様に、犬歯を剥き出しに笑うと、デルフリンガーを握り直し、士郎は水の城の如き竜巻に向かって駆け出した。
 






 な、ぜ……何故、彼は逃げな、いの……なぜ……?

 逃げることなく、山の如き竜巻に向かって躊躇いもなく駆け寄る士郎の姿を、アンリエッタは霞がかる意識で見つめていた。急激な魔力の消費により、気絶寸前のアンリエッタだったが、意志の力により、何とか未だ意識を保っていた。一瞬でも気を抜けば、確実に気を失う様な状態にも関わらず、何故意識を保とうとするのか……。

 それは……。

 愛するウェールズのため? 
 
 女王という重荷から逃げるため?

 それとも……。


「……綺麗」


 この美しい光景を見ていたいから……。

 

 不意に聞こえたそれが、一瞬、自分の声だと分からなかった。
 自分の声の筈なのに、
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