第四章 誓約の水精霊
第九話 剣
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れた冷たい頬のはずが、熱い感触だった。その熱は、自分の目から溢れる涙によるものだった。自分が泣いていることに気付き、今にも倒れそうなアンリエッタを士郎は見つめている。
「それで、幸せになると言われても、信じられるわけが無いだろう」
よろよろと顔を上げ、縋る様に見つめてくるアンリエッタに、ふっと、硬い表情を柔らかくすると、小さな……小さな笑顔を士郎は向けた。
「それに……泣いてる女の子を助けるのは、当たり前のことだ」
「っ! あなたは、なぜ、そこま――」
吹けば飛ぶような小さな笑顔なのに、それはアンリエッタの胸をどうしようもなく騒ぎ立てた。何か、何か言わなければと、急き立てられるように口を開こうとしたアンリエッタに、不意に目映い光が降りかかった。
止み始めた雨に交じり降り注ぐそれは、アンリエッタだけでなく、ウェールズを含む不死の騎士団にも降り注ぐ。光に触れた者たちから、糸が切れた操り人形のように、次々と泥を巻き上げ地面に倒れていく。光に触れたアンリエッタもまた、それが切っ掛けになったのか、ついに意識を手放してしまった。段々と近づいていく、闇の様に黒く冷たい泥。
その中に落ちていくアンリエッタだったが、消えかかる意識が最後に感じたのは、冷え切った体を温める炎の如き熱さと、押し潰されそうになる心を守るかのように、身体に回される腕の感触。
それを最後に、意識を手放したアンリエッタの顔には……
親に抱かれた幼子の様な笑みが浮かんでいた……。
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