第四章 誓約の水精霊
第九話 剣
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予想されます。既に近隣の警戒、港の封鎖の命令は出しました。後はヒポグリフ隊の者が追いつければ良いのですが……先の戦により竜騎士隊が使えない今の状況では……五分五分といったところですか」
隊長の話しを聞くやいなや、直ぐに風竜に駆け戻る士郎とルイズ。ルイズを抱え、風竜に飛び乗った士郎は、タバサに声をかける。
「タバサっ! ラ・ロシェールに向かってくれ! 賊は馬を利用している、出来るだけ低く飛んでくれっ!」
士郎の言葉に頷いたタバサは、風竜を街道に向けさせた。風竜の鋭敏な感覚は、まるで夜の闇に沈む木々を避け飛んでいく。風竜の上に立つ士郎は、吹き掛かる風を全身に受けながら、微動だにせず地上を見下ろしている。
「まだだ……まだ間に合う……っまだ」
四肢が切断された者。
全身を凍りつかせた者。
身体の所々を焼け焦げさせた者。
共通するのは唯一つ……生きている者がいないこと。
様々な死体を目の前にしたアンリエッタは、地面に座り込み、震える身体を必死に動かし、手に持った水晶のはめ込まれた杖を目の前にいるウェールズに向けていた。カタカタと震える杖の切っ先に立つウェールズは、先程起きた惨劇を感じさせない優しい笑みを浮かべていた。
「な、何故? 何故魔法衛士隊を……」
「仕方がないんだ。彼らは君を取り返そうとしていた。説得することが出来ないなら殺すしかないんだ」
「……あなたは本当に、ウェールズ様なのですか?」
「嘘だと思うかい?」
「わか、分からない……分からないわたし……もう、わたし……」
手から杖を取りこぼし、頭を抱え小さく体を丸めるアンリエッタ。
……アンリエッタが目を覚ました時、目の前では惨劇が起こっていた。魔法の風や炎、氷により悲鳴を上げ倒れていく者……それは、魔法衛士隊のヒポグリフ隊だった。呆然とその光景を眺めていると、何時しか悲鳴が聞こえなくなっていた。惚けて呆然としているところに、膝を曲げたウェールズが目の前に現れたのだ。
「いいんだ。いいんだよアンリエッタ。君はただ僕を信じてついて来てくれればいいんだ。もう、覚えていないかな? あのラグドリアン湖で君が僕に誓ってくれた言葉を」
「わすれ、るわけが、ないじゃ、ないで、すか。これまで、それ、だけが、たより、で、いきて、きたん、ですから」
よろよろと顔を上げ、ニッコリと微笑むウェールズを見上げるアンリエッタ。その目は細かく左右にぶれ、焦点があっていない。
「もう一度、僕に聞かせてくれないかな?」
返り血を頬に受け、血に濡れた顔でにっこりと朗らかに笑うその顔は、酷く怖気を誘うものであった。しかし、アンリエッタは怯えの色を見せることなく、のろのろと口を開いた。
「…
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