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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百八十一話 講和交渉
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リューニヒトが大きく息を吐いた。
「今すぐ同盟領を併合しても混乱するだけだと彼は考えている」
「だから三十年の間を置くと?」
「そうだ、その間に帝国は一層の内政改革を行う。そして同盟と帝国の間で交易を始めとして様々な交流を図ろうと考えている」
唸り声が聞こえた。ホアンが唸っている。
「つまりその三十年で同盟市民の帝国への反発を軽減しようというのか」
「そういう事だ。三十年後には帝国の統治を受け入れても問題は無い、そう思わせようとしている」
容易ならん話だ。溜息が出た。
「トリューニヒト、その三十年間、同盟の政治的地位は?」
「保護国」
ホアンが質しトリューニヒトが簡潔に答えた。重苦しい空気が執務室に漂った。
保護国か、つまり自主独立の国ではないという事か。それにしても併合まで三十年をかけるとは……。自分なら待てない、年齢的にも成果を求めてしまうだろう。だがヴァレンシュタイン元帥は待つ。そして帝国の指導者達はそれを受け入れている。余程に信頼されているのだろう。そして帝国は本気だ。ただ征服する事で満足するのではなく本気で宇宙統一を考えている。
「民主共和政はどうなるのかな?」
「三十年は保証される」
「その後は?」
ホアンが問うとトリューニヒトは“分からない”と首を横に振った。
「彼は国民の声を何らかの形で統治に取り入れる事は必要だと考えている。だが民主共和政に対して必ずしも良い感情を持ってはいない」
トリューニヒトの声は沈痛と言って良かった。
「彼はこう言ったよ。大国の統治に民主政体は適さないと」
「それは……」
「そしてこうも言った。人類は民主共和政体を運用出来るほど成熟していないと」
「……」
ホアンと顔を見合わせた。単純に民主共和政が嫌いだというわけでは無い。むしろ熟知しているが故に否定していると思った。それにしても醒めている。
「明日の講和交渉だが君達は遠慮してくれ。私と官僚達だけで行う」
「如何いう事だ? 私達三人で行う筈だぞ」
「レベロの言う通りだ。納得が行かんな」
私とホアンが抗議するとトリューニヒトが笑い出した。こんな時に笑うとは何を考えている!
「礼を言うよ、君達は私にとって真の盟友だ」
「おい、ふざけているのか?」
「ふざけてはいないよ、レベロ。もう一度言う、明日の講和交渉、君達には遠慮してもらいたい」
強い声だった。ホアンと顔を見合わせた。トリューニヒト、何を考えている?
「今回の講和交渉で私の政治生命は終わりだろう。君達をそれに巻き込みたくないんだ」
「……」
「三十年、保護国となった同盟がどう過ごすかで帝国の民主共和政に対する評価が決まるのではないかと私は考えている。安定した繁栄を三十年続ければ帝国も民主共和政を或る程度認める可能性は出て来る
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