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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百八十一話 講和交渉
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ています」
またトリューニヒトが俺をじっと見た。刺す様な視線じゃない、計る様な視線だ。俺を値踏みしている。

「帝国人も同盟人も互いを、互いの国家を良く知りません。現時点で併合しても混乱が生じるだけでしょう。それに帝国は国内において改革の最中です。出来ればしばらくは国内改革に専念したいと思います」
「そのために三十年ですか」
「ええ、三十年かけて統一の準備をする。そう考えて頂きたいと思います」

三十年、やる事は幾らでもある。先ずフェザーンへの遷都、そして通貨の統一、暦の統一。憲法を制定し公法、私法の改訂が必要だ。法を整備し同盟市民から見ても納得出来るものにする必要が有る。それにこれからは直接帝国と同盟が交易を行う。共通の標準を持ち共通の規制、規格を持つ必要が有る。工業製品、技術、食品安全、農業、医療……。国内の整備はまだまだこれからなのだ。

喋る言葉が違っても構わない。政治信条が違っても良い。だが宇宙は一つで統一されているんだという認識は持たせる必要が有る。そしてそれこそが人類の繁栄と安定を支える基盤なのだと実感させられれば不満は有っても受け入れる事は出来るだろう。

「民主共和政は如何なりますか? 同盟市民にとっては最も大きく大切な権利です。地方自治レベルで保障していただければ併合もスムーズにいくと思いますが?」
トリューニヒトは併合に対して反対していない。形だけでもするかと思ったがしないという事は反対する事に意味が無い、無駄だと考えているのだろう。俺に不快感を持たれると思ったのかもしれない。現状把握能力は高いな、それとも迎合能力が高いのか……。

それに結構強かだ。旧同盟領で民主共和政を認めれば帝国領内でも認める事になるだろう。いずれは中央政府でもという声が上がる。狙いは立憲君主制かな、君臨すれども統治せず。議会制民主主義による統治への移行か……。地方自治レベルでは認めても良い、もっとも歯止めは必要だが。しかし中央政府では無理だな。

「大国の統治に民主政体は適さない、そう思いませんか?」
「それは……」
トリューニヒトが絶句した。どうやら知っているらしいな。古代ギリシア、アテネ生まれの歴史家の評価だ。その歴史家の名前は忘れた。だが怖い言葉ではある、忘れる事は出来ない。民主主義発生の地であるアテネをアテネ生まれの歴史家が評したのだ。衆愚政治に余程懲りたのだろう。

「しかし市民の声を統治に反映させる事は必要な筈です。それにこう言ってはなんですが暴政、悪政を起こさせないためにも抑止機能を持つ機関が必要ではありませんか?」
「そのためにも議会制民主主義を取り入れるべきだと?」
「そうです」
思わず笑ってしまった。専制君主政だけが悪政を引き起こすというのか? 議会制民主主義国家だって悪政、暴政は起きている。問題
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