卒業式
12 本当の帰還
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!」
皆から促され、有宇は一つ息を吸った。
必要もないし求められてもないのに、この心臓の高鳴りは何なのだろう。
有宇の心は決まった。
一つ息をはき、全員を見渡すといつの間にか心が温かくなっていく。
有宇は緊張していた頬がほぐれていくのを感じた。
奈緒、高城、黒羽がそれぞれ有宇を見つめる中で彼は話し始めた。
「かつての僕はただのカンニング魔だった」
その一言で十分だったのだろう。
奈緒の「えっ…」という掠れた声が漏れる。
右隣では「おや…」と高城。
左隣では「はい?」と黒羽が首を傾げている。
「それがきっかけで奈緒と高城に掴まっ て、この学校に転校してきて…生徒会に半ば無理矢理入れられて、その過程で黒羽とミサに出会った」
奈緒の瞳からこぼれ落ちている涙が頬に幾つもの軌跡を作り、床に落ちて染みを作っている。
有宇はそんな奈緒を見つめて微笑み、更に続けた。
「一度は死んでしまった歩未をタイムリー プによって救うことが出来た。でもそのあとに失ったものがとてつもなく大きくて…… 僕はあんなことが二度と世界中の誰の身にも起きてほしくなかった。だからあの旅に出たんだったな」
有宇が笑顔で奈緒の方を向くと、くしゃくしゃになった奈緒も泣きながら無理矢理笑った。
「記憶が戻ったんですね、乙坂さん!」
「よ、良かったァ。ほんとに良かったァ」
視界の右から伸ばされた高城の両の手が僕の右手を包み込み、左隣の黒羽は手の甲で溢れる涙を拭いながらしゃくりあげている。
「ぁ…」
不意のフラッシュバック。
そうあの日のことだ
有宇は思い出した。
あの旅から帰ってきて目覚めたあの日、奈緒がくれた言葉を。
『乙坂有宇くん、おかえりなさい!』
あの後も時空間を飛び交う旅があり、そしてようやく今この瞬間、旅の全てが終わったことを実感する。
帰ってきたんだな…僕は。
記憶を失う前の自分と今の自分が感じてきた物を噛み締めながら、もう一度皆を順に見回しす。
数ヵ月前の奈緒の言葉に返事をするようにして奈緒を見つめ、心から叫んだ。
「皆、ただいま!!!」
FIN…
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