11 別れ
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全く記憶に無いのに有宇は何故だか同じことを言われた気がしていた。
生徒会顧問に生徒会会長と副会長が遅れるなど言語道断とガミガミ怒られ、二人はチロリと舌を出した。
『卒業証書授与。卒業生代表、友利奈緒』
「はい!」
数学教師に指名された奈緒は、授業の板書に向かう時と何ら変わらぬ面持ちで、堂々と大勢の生徒の前を横切る。
その中にはかつてのいじめっ子たちも含まれていて、奈緒からすると、どうせ睨んできているのだろうと考えて無視しようとしていたその時だった。
「生徒会長!ありがとぉ!お務めご苦労様ぁ!」
その声は奈緒をリンチしたうちの一人に間違いなかった。
それもリーダー格の女である。
それにつられてそのグループから次々に感謝の言葉が飛んできて、第三学年のあちこちから奈緒の元へ労いの言葉を届けていった。
最近涙もろいなと感じている奈緒に、我慢できるはずもなかった。
ステージに上がる直前に回れ右をして振り返り、そのぐしゃぐしゃになった顔面でズビズビと鼻を啜らせながら彼女は無理矢理笑顔を作った。
その表情につられて鼻の奥がきな臭くなる者、泣き出してしまう者も多くいた。
記憶の無い乙坂有宇ですら心臓を潰されるような感覚を味わったほどである。
これからも彼女の笑顔は多くの人を幸せにし、嬉しいこと、楽しいことを増やしていくのだろう。
こうして卒業式を迎えて、明日から有宇達はそれぞれの道へ向かう。
有宇は就職専門学校へ。
奈緒は大学生に。
高城は実家の跡継ぎ。
黒羽は言わずもがな、本格的にアイドル路線を。
黒羽柚咲はともかく四人ともバラバラになるとは誰が想像しただろうか。
いや、みんな分かっていて敢えて考えないようにしていたのだ。
別れを嘆くことより、残された最後の時間を目一杯楽しむこと。
皆が皆そう行動したおかげで、別れが辛いなどと考えた者は一人としていなかった。
出会いがあれば別れがある。
別れがあれば出会いがある。
表裏一体、紙一重の言葉と言えるそのフレーズはまさに今の有宇たちには似つかわしいのではないだろうか。
別れは出会いのきっかけ。
そう胸に秘めてそれぞれは各々の道を歩き始めた。
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