卒業式
09 時空改変
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はっ…く、苦しい」
僅かに漏れだす空気を求めて喘ぐ有宇がもがいていることに気付いた奈緒は「おっと、これはすみませーん」とわざとらしく、いや、可愛らしく(怒)言ったあと、巻き付いていた足を離し、有宇の隣に浮かぶ。
「はぁ…はぁ…僕を窒息死させる気か!!」
「あれれー?全知全能不死不滅の神様が何を言ってやがられますかー」
相も変わらず小憎らしい奈緒の口調は有宇にとって懐かしく、それでいて心臓が飛び出るかのごとくドクドクと激しく鼓動を打つ。
「そうだな。ん、でもなんでだろう。こんな会話、初めてなのに凄く久しぶりな気がする」
ぽわーんと瞳が空を見る有宇の記憶メモリーには引っ掛かることはない。
「それはそうですよー。私は実際にあなたとよく喧嘩する仲だったんですよぉ?」
「へぇ、そうなのか。それなのに僕は君を好きになったんだよね」
自分の知らないかつての二人の関係を知った有宇の瞳は、驚きを隠せずに一粒の黒点となっている。
「はい。あなたは本当に本当に変な人です」
「でした、じゃないんだな」
「それは今もですからねぇ…っとそういえば気付いてますか?」
「何に?」
「あの、穴に向かって飛び立つ瞬間から自分の口調が戻っていること」
「え、あ、ホントだ。戻ってるかどうかは分からないけど、確かにちょっと違うな。なんとなく引き締まってるっていうか」
自分でも気付かなかった箇所を好きな人に気付かれたことが、有宇にとって気分の悪いものではなかった。
「あなたは元々そういう話し方でしたから。何か思い出しましたか?」
「んー、奈緒のことがずっと前から好きだったってことくらいかな」
「もう!有宇くんったらノロケっスか!いいっスよ。大歓迎です!」
有宇は背中をバジバシ叩かれて噎せて(むせて)いる。
昔の有宇も含めて、こんなに他人に心を許す彼女を見るのは初めてなのではないだろうか。
失っている記憶は全く蘇ろうとはしないのに、何故だか奈緒への気持ちは止まることを知らないでいる。
僕は彼女が好きだ。大好きだ。
記憶は失ってしまっても、彼女のことは心が覚えてくれていた。僕の心に刻み込まれていたんだ。
彼女を自らの視界の中に納め、有宇の思考は奈緒一色になっている。
今考えていることなど時空改変後には全て忘れてしまっているのだということすら見えなくなるほどに。
有宇と奈緒は寄り添い合い、暗闇の中で一週間を共に過ごした。
その間にナニをしたかはご想像にお任せするとしよう。
とにかく、その一週間、お腹がすくこともなく、喉も乾かず、ただただ暗黒の中での時が過ぎていった。
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