卒業式
08 温もり
[8]前話 [2]次話
グスッ。
鼻を啜る奈緒が立ち上がり、有宇の正面を向き、いきなりその胸に飛び込んだ。
「わっ、ちょっ…えっと…どうしたの?」
一瞬焦る有宇は彼女の背中に腕を回し、右手をポフポフと頭で跳ねさせる。
「補充してるので、少しそのまま動かないで下さい」
「えっと…なんの補充なのかな」
疑問符を浮かべる有宇を見ることなくそのままキュッと抱きつく奈緒からは、シャンプーのいい香りが漂う。
「私のです。あと有宇くんの成功祈願も兼ねてです」
よく意味が分からないという顔を一瞬するが、理由もなく納得したようにその表情は柔和になる。
「そろそろですね」
抱きついたままの奈緒が有宇の耳許で呟くと「うん」と答える。
その返事に合わせて有宇から離れる奈緒の顔が目の前にあるためか少し赤面する有宇。
「えっと…なんだか恥ずかしいよ」
「はい。思ったより私も凄く恥ずかしいです」
見つめ合う二人。
このまま時間が止まってしまえばいい。
奈緒は勿論、記憶はなくとも心の奥底では彼女はとても愛しい人だと感じている有宇もまたそう感じていた。
「ん…?」
不意に僕の頬に柔らかくて小さい、僅かに湿った何かが触れる。
その先には奈緒のキラキラと光る瞳を携えた顔があり、一瞬の出来事に思考が停止する。
「頑張って下さい。大丈夫です。この私がついてますから」
「あ、ああ。えっと…うん」
奈緒自身のおかげで半分しか耳に入らなかった言葉を頭の中でもう一度反芻し、噛み締めてから答える。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
「僕たちの卒業式に」
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ