第三章
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「そうしてみたの」
「今日はお祖父さんのだね」
「お父さんの為の晩御飯よ」
「そうしてくれるんだね」
「うちの人も好きだし」
エカテリーナの夫、エリザベータの父もというのだ。
「だからね」
「楽しみにしていて」
「いやいや、楽しみじゃないよ」
「っていうと?」
「あんた一人で作るんじゃないね」
その夕食はとだ、婆さんは娘に笑って返した。
「私もいるじゃないか」
「そうね、いつもね」
「御飯は二人で作るじゃない」
「お母さんはもう休んでいいのね」
「何言ってるんだい、身体が動くならね」
「動けるまでね」
「働くものだよ」
こう笑って言うのだった。
「それが世の中で一番大事なことだよ」
「お母さんの昔からの口癖ね」
「人はね」
「そうしないと駄目よね」
「神様はそう教えてるよ」
「ソ連もなくなったしね」
「あはは、共産主義でもだよ」
宗教を否定しているイデオロギーであったがだ。
「こう言ってたね、あんたに」
「神様はいるって言ってね」
「おおっぴらには言ってなかったけれどね」
流石にソ連時代はそれはまずかったからだ、この辺りを上手にするのがロシアの生活の知恵というものだろうか、
「それでもだよ」
「神様はいて」
「動ける限り働かないとね」
「それじゃあね」
「二人で働くよ」
そして晩御飯を作ろうというのだ、こう話してだった。
二人で料理を作った、婆さんは娘とも楽しい時間を過ごしながらだった。
エリザベータの成人を待った、そして。
エリザベータが大人になった時にだった、本当に奇麗になった彼女に家で笑顔でこう言ったのであった。
「うん、私の思ってた通りだよ」
「私はっていうのね」
「そうよ」
その通りという返事だった。
「エカテリーナの若い頃そっくりよ」
「そうなのね」
「あんたもそう思うよね」
婆さんは一緒にいる娘も見て言うのだった。
「そうだよね」
「ええ、エリザベータはね」
実際にとだ、エカテリーナも答える、皺はあるがすらりとしていてまだまだ奇麗な顔をしている。
「私そっくりよ」
「そうだね、それじゃあね」
「私になのね」
今度はエリザベータが応えた。
「サラファンくれるのね」
「欲しいかい?」
婆さんは孫娘にこのことも尋ねた。
「確かめておくけれど」
「欲しいわ」
これがエリザベータの返事だった。
「ずっと待ってたから」
「そう言ってくれるんだね」
「ええ、だってお祖母ちゃんのサラファンね」
「何度も見せてるね」
「凄く奇麗だから」
だからこそというのだ。
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