卒業式
05 消失、欠落
[2/2]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
者だけではなく、能力者になりたい人間は誰でもなれてしまうとても危険なものだ。
兄さんから聞かされていたが、僕が日本にいない間に能力者によるテロが少なからずあったらしい。
もし子供から大人まで様々な能力者を生んでしまえば、テロの数はその比ではないだろう。
だから僕はそのアンプルの開発に起因するシャーロット彗星の破片を無かったことにしなければならない。
現存する破片を破壊したところでアンプルが既に様々な国で使用されていることは明らかなのだから。
時の経過と共に激しくボロボロになっていく体は既に痛覚を失い、血の味がしないことから味覚、何も聞こえないことから聴覚、着ている服やその場所に立っていることが分からないことから触覚、先程までしていた薬品の鼻孔を貫くような臭いがしないことから嗅覚が殺られていると分かる。
そんな壊れてしまいそうな苦痛を五分も味わい、終わった時には気絶する瞬間すら知覚出来なかった。
目を開くと僕は宇宙空間にいた。
小惑星が漂っている中を器用に体が避けている。
いや、その石ころたちが僕の体を避けているのだ。
あの五分で見た映像を「録画」の能力で保存してある自らのメモリーフォルダから引っ張り出して頭の中で一瞬にして再生する。
シャーロット彗星がこれまで欠片を落とした場所や、現在さまよっている銀河系を把握することに成功する。
まずはシャーロット彗星が地球に近付く十四年前に飛ばなければならない。
過去に地球に落ちた欠片を全て無かったことにしなければならないからだ。
「あと…もう少しで帰れるんだ。帰るんだ。今度は今の僕が約束したんだ。奈緒の元に帰るって。あれ…」
そこである違和感に気付く。
「奈緒って…誰のことだろう」
自らの右の掌を見ながら握ったり開いたりしても何も浮かんでこない。
あの五分の間に記憶を再び失っていることに気付いたのは暫く後になってからだった。
「まぁ、いいか。覚えてない人間のことなんて」
そう言いつつふと右手に何かを握っていることに気付く。
「これは…なんだか懐かしいな」
いつの間にか握りしめていた首に下がるボロボロのアクセサリーは僕を心地よい温かな光で包んでくれるようだった。
「じゃあ、一緒に行こうか。全ての元凶を絶つために」
これを僕にくれた人は誰だったのだろう。
思い出せないけれど、それでもその人の心は僕についてきてくれる。
なんだかそんな気がした。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ