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第一章
とんだ妖怪
中国唐代、中唐の頃の話である。
洛陽、長安の第二の都において富豪として有名な王家でだ。困った話が起こっていた。
娘が憑きものに囚われてしまったのだ。それでだ。
生で肉や魚を頬張り奇妙な歌を歌い舞いだ。真夜中に騒ぐ様になったのだ。それを見てだ。
屋敷の主、娘の父である王単はだ。すぐにだ。
道士を呼ぶことにした。こうしてすぐにだ。洛陽においてとりわけ名が知られた道士が屋敷に呼ばれた。来たのはまだ若い、髭すら生えていない男だった。
見れば女と見間違うばかりに整っている。細い身体を道服で包んでいる。その彼を見てだ。王単は驚きながらこう道士に尋ねた。
「あの、女では」
「いえ、私は男です」
道士はにこりと笑って答える。だがその声もだ。
女の様に高い。それを聞いて王単は余計にいぶかしんだ。それが言葉になって出る。
「だといいのですが」
「御安心下さい。名前は魏参といいます」
「魏といいますと」
「とはいっても魏徴様とは何の関係もありません」
唐代初期のだ。唐の太宗に仕えた人物だ。太宗を諫めその政を正すことこのうえない人物でだ。太宗に己の鏡とさえ呼ばれていた。
その彼がだ。こう言うのだった。
「ただ姓が同じというだけです」
「左様ですか」
「はい、そうです」
魏参はそのことは断る。そのやり取りからだ。
王単は気を少し取り直してからだ。こう魏参に話した。
「では文のことですが」
「娘さんのことですね」
「詳しい話はこちらで」
こう前置きしてからだ。そうしてだ。
魏参をだ。屋敷の中に案内した。自分の部屋に彼を招き入れ向かい合って座りだ。そのことを話すのだった。
「まことに奇怪ですね」
「そうですね。御聞きするところによりますと」
「どう思われますか?」
「娘さんはそれで今どうされてますか?」
魏参は王単にだ。返答に答えずにだ。こう尋ね返すのだった。
「一体」
「娘がですか」
「はい、どうされていますか」
このことをだ、魏参は問うのである。淡々とした感じで。
「今現在は」
「相変わらずです」
王単は困り果てた顔で首を横に振ってだ。こう答えた。
「いや、暴れおかしな歌を歌いです」
「文にあるままですね」
「ですから。とても外に出せず」
それでだというのだ。
「今は部屋に閉じ込めています」
「左様ですか」
「中に出ようと暴れています」
「左様ですか」
「はい、そんな有様です」
「わかりました」
ここまで聞いてだ。魏参は静かに答えた。そのうえでだ。
こう王単に言うのであった。
「ではお世話をしている方は」
「はい、使用人の新という娘です」
「その娘ですか」
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