暁 〜小説投稿サイト〜
魔法少女リリカルなのはStrikers〜誰が為に槍は振るわれる〜
第一章 夢追い人
第8話 彼の来た理由―後編
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……伝える気はないのですか、あなたの“正体” を、あの子に?
「……っ」

 そのラディを制するように、柔らかい声でセラフィムは話題を変えた。
 その効果は劇的で、それまで視線だけで相手を殺しかねないほど殺気立っていたラディが、なにかをこらえるように歯を食いしばり、視線を落とす。

?あの子は、あなたが思っているより強い。あの状態から立ち直って見せました。ならば、今度も――?
「――そんなことはないさ」

 セラフィムの言葉を遮りラディはポツリと漏らす。
 微かな声ではあったが、そこに秘められた行き場のない思いにセラフィムは口を(つぐ)む。

「あの子は、強く見えるだけだ。実際には強くもなんともない。まだまだ、子どもだ」

 ラディの頭に浮かぶのは、あの子を傷つけたときのこと。
 過去の古傷を開き、抉ったときのこと。
 あの時、もしラディが踏み止まらなければ、きっとあの子は壊れていただろう。
 だから――

「オレのことは伝えない。今はまだ、あの子が知らない残酷なもう一つの真実を、知らせる必要はない」

 そう断言するラディの横顔は、揺るぎない決意に満ちていた――そう、この人はきっと思っているのだろう。
 実際には、隠しきれていない寂しさが、昏い昏い影を落としているとは知らずに。
 
?……?

 彼の孤独の理由。彼の決意の理由。その全てを知ってなお、セラフィムは何も言わず、ただ彼の左の薬指にぶら下がる。
 言いたいことは山とある。だが、それを口にすることは許されない。
 これはあくまで彼の問題。自分はその問題を知っているだけで、その場に居合わせることも、関わることもできなかったただの部外者。

 そんな自分が口を挟むなど、許されない。

「……そろそろ戻るとするか」

 ラディは歩き出す。自分の新たな、“気を許せない仲間” の下へと。
 その顔に、任務を達成した人間に相応しい達成感に満ち溢れた笑顔を張り付けて。
 その心に、感情(どく)を押し込め鍵をして、ラディは手を振りながら、六課のメンバーの下へと歩いて行く。
 
 セラフィムは祈る。
 それが、自分の名前からみても、機械(デバイス)であることからみても、相応しくない行為であると知りながら。

 どうか、早く、強くなってくれますように。

 この人が抱え込んだすべてを受け止めれるように。

 でなければもう、この人は長くはもたないだろうから。

 だから、だから――っ!!

 セラフィムは祈る。
 いま目の前で、楽しそうに話す。自分より少ししか高くない目線の、小さな少年に。

 それが、届かぬ祈りであると分かっていても……。



?――早く、強くなってくださいね、エリオ?





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