アインクラッド 後編
流星の終着点
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と言うべきか、これだけ探し回っても目的の場所は見つからないのだ、探索の断念を提案しても不自然ではあるまい。
マサキは立ち上がり、歩いてきた道を戻ろうとする。その瞬間、目の前にエミの顔が浮かび上がってマサキの両脚を硬直させた。
別れ際、最後に見た顔だった。
全体が真っ青に汚れ、今にも泣き出しそうな顔。
マサキは視線を下に逸らして、息を大きく吐き出しながら顔を左右に振った。
まさか、ここまでエミに侵食されていたとは……。
数秒地面を見つめてから顔を上げると、視界の隅を何かがちらりと横切ったのが見えた。首を捻りつつ見上げると、マサキが見たのであろう何かは既に消えてしまっていたが、それとは別の、新しい光の筋が天井に吊り下がった星々の間を翔け抜けていく。
「流星……?」
マサキの発言は、厳密に言えば誤りである。この洞窟で見ることのできる光の正体は、星ではなく天井から吊り下がった虫型のクリッターなのだから。ということは、今見ている光の筋は恐らく、羽化したワームが飛び回っているとか、そういう類の現象なのだろう。しかし、青みがかった淡い光を放ちながら頭上を流れていく様には、そんな些細なことなどどうだっていいと思わせてしまうほどの魅力があった。
マサキが見つけた光は、流星にしては短い尾を引いて彼方へ飛び去っていく。すると、それに導かれるように、一つ、また一つ、新たな星が流れ出した。それらは瞬く間に洞窟の空を埋め尽くし、雨の様な濃密さで同じ方向へがむしゃらに翔けて行く。
マサキはふと、この現象は果たして流星を再現するためだけのものなのかと疑問を抱いた。現実の流星には放射点と呼ばれる座標が存在し、星はその点を中心に外側へ向けて流れていくものなのだが、現在頭上を流れる光の筋は全て同じ方向を向いている。
それは、普段のマサキであれば気にも留めないような疑問だった。その先に何があるかはもちろん、何かが存在するのかさえ分からない。そもそも何かが存在していたとして、それはマサキにとってどうだっていいことだ。
しかし、マサキは流星の流れ落ちる方向を見、エミを残してきた方向を見ると、身体を反転させて星の流れに追従する道を選んで歩き出した。
行った先で見つかるかもしれない「何か」に期待を持っているわけではない。ただ一つ言えるのは、もし星の向かう先とエミのいる方角が同じだったら、マサキが星を追うことは絶対になかっただろうということだ。
辺りに再湧出し始めたモンスターを倒しながら進むこと約五分。結論から言えば、やはりこの流星群は単なる天候イベントではなかった。《星空の回廊》は洞窟系ダンジョンの例に漏れず道が多少曲がりくねっているのだが、そこを通る流星もまた、道に沿って曲がりながら進んで行っていた。
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