暁 〜小説投稿サイト〜
蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第134話 弓月桜
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立つ少女の方にのみ話し掛ける俺。
 戦闘前の緊張を一切感じさせる事もない普段と同じ口調で……。

 しかし――

「姉上。姉上は俺の事を見捨てたりはしませんよね?」

 ふたりで一緒に、父上の望んだ世を目指しましょう。
 相変わらず、フードを目深に被り線の細い顎のラインだけをコチラに向け、そう言う犬神使いの青年。
 俺の呼び掛けに対しては無視。そして、犬神使いのその言葉に、ゆっくりと首肯くさつき。ただ、その仕草にかなりの違和感。

 ちっ、厄介な。軽く心の中でのみ悪態をひとつ。予想されていた事とは言え――

「姉上とか言いながら、精神支配か?」

 嫌悪感を隠そうともせず、そう話し掛ける俺。
 但し、これはほぼ演技。何故ならば、ヤツは所詮犬神使い。こんなヤツに、人質の扱いに対して人道的な物を求める事自体に意味がない。まして、コイツが他者の命を何とも思わない存在である事もまぎれもない事実。そうでなければ、他人の生命を生け贄にして邪神召喚など出来る訳がない。
 それに、ハルヒは人間の盾にされ掛けましたし、俺もハルヒ共々、野太刀で両断され掛かりましたから。

 俺の感覚では、平気で人を殺せる……躊躇いなく人間を相手に武器を振るう事が出来る存在は、最早人間ではない。……そう言う括りでも構わない、と考えていますから。
 当然、これは自身に対する戒めでもある。
 そう成りたくないから、無駄になる可能性が高くとも出来る限り言葉に因る交渉から入ろうとし続けている。これには洞統や水晶宮の戒律により義務付けられている……と言う理由以外にも、自分が人間以外の存在へと傾いて行く事を防ぐ意味も含まれている。

 その言葉を聞いた瞬間。
 普段の……教室でそう言うキャラを演じて居る時と同じ顔のさつきに、一瞬、何か別のモノが浮かんだような気がした。
 これは――

 しかし――

「姉上、あなたは優し過ぎる」

 あんな奴の口から出た言葉になど耳を貸す必要などありませんよ。
 俺の言葉を聞いた犬神使いの青年が、妙に優しい言葉で彼女の耳元に囁く。

 成るほど。あの程度の揺さぶりで表面から見ても影響が出て居る事が分かるレベルの洗脳ならば、解除するのはそれほど難しい事ではない。
 元々土行には精神に作用する仙術も存在するので、その系統の術……それがどの様な邪法であろうとも、土に由来する魔法なら俺の木行で剋する事は可能ですが……。

 科学的な方法。例えば薬物などを使用した洗脳でなければ、準備して来た方法で大抵の術の解除は可能か。
 悪い方向へ進もうとする思考を無理矢理に明るい方向へ導く俺。それに、この犬神使いが姿を奪った相手は大学生とは言え文系。少なくとも余程のマニアックな知識でもない限り、薬物を使用した洗脳の詳しい
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