第6章 流されて異界
第134話 弓月桜
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折走る自動車の気配も感じる事が出来る。
そんな、ごくありふれた冬の夜。
しかし――
普段の夜と比べて一段と濃い闇。
一歩、其処に近付く毎に一歩分。
ひとつ、呼吸をする毎に、一呼吸分濃くなって行く空気。
乾燥しているはずのシベリア産の大気が、何故かねっとりとして肌に纏わり付くかのようで少し不快。まるで、これから先に待ち受けている戦闘に対する不安と恐怖。そのような負の感情が、すべてこの闇の中に凝縮しているように感じる。
「大丈夫ですよ」
武神さんが守ってくれて居ますから。
少し翳のある笑み。ただ、東洋風の清楚な顔立ち。有希や万結のように妙に鋭角な雰囲気や、ハルヒやさつきのような刺々しい雰囲気もない彼女には、そのような翳の部分もむしろ好材料。
でも……と小さく前置きをする弓月さん。
「あなたと居ると、何時も頼って仕舞いそうになるから――」
私は、本当は誰にも頼ってはいけないのに……。
何時もの弓月桜とは思えないようなはっきりとした声で、そう答えを返して来る彼女。普段の上品な……育ちが良いと表現される言葉使い。甘い……とは言っても、その中に他者に対する甘えのような物を一切含む事のない彼女からすると、これは考えられない状況。
そう、今の言葉と声の中には、微かな依存。甘えのような物が含まれていたのは間違いない。
但し、現実に今は真冬の夜中。それも東北地方に属するこの高坂と言う街でありながら、彼女の吐き出す息は白くけぶる事もなく、服装も白衣と緋袴に弓用の胸当てだけ、……と言うこの季節にしては非常に涼しげな服装。
本来ならば、このような出で立ちで出歩けるような、そんなヤワな気温でない事は間違いない。
そう、この問い掛けは当然のように確認の意味だけ。少なくとも俺が女性と共にいて、その相手を吹き曝しの中に、何の対策も施さずに立たせている訳はない。
朝倉さんには、そこを突かれて俺の正体に迫られましたが、それでもこれは俺の主義。これを忘れては、俺のアイデンティティが保てなくなります。
ただ……。
ただ、何時の間にこんな習性を身に付けたのか、と問われるとはっきりしないのですが。
仙術を学ぶ以前――初めて死に直面する前。自らの本名を名乗って暮らしていた時には、そんな事を考えた事はなかった……ハズ。所詮は中学一年生。一般的な男性の内でも半分は出来ていないだろう、と言う妙にフェミニストな行為が自然と出来る訳はない。
そう考えると……。
「私を気にする必要はありませんよ、武神さん」
普段の禊……身削ぎはもっと厳しいものです。
当然、あなたも知っているでしょうけど、そう言う意味を籠めて言葉を続ける弓月さん。
何か重
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